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京橋で美しい石を聴く
書籍の装丁家を生業とする模様石の世界的蒐集家、山田英春さんを知ったのは、雑誌BRUTUS No.963の『珍奇鉱物』特集にてだった。この号でステーショナリーブランド「ポスタルコ」のデザイナー、マイク・エーブルソンさんが編集者の導きで山田さんと引き合わされ、山田さんのコレクションを前に、互いの好きな鉱物を語り合う対談記事が差しこまれていた。
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マイクさんがとりわけ惹かれたのはフィレンツェ近郊、アルノー川流域で産出する(そのスポットはたった一人、イタリア人の老人しか知らないそう)石灰岩を断裁して現れる幾何学模様が美しい『アルノーの緑』という石だった。
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ぼくもマイクさんと同じく、一目でこの石の虜になり、山田さんから分けてもらえる最初の機会、今年1月の浅草・石フリマに出かけたり、オンラインでの販売を覗いたりしたが、いまだ手にできないでいる、憧れの宝物だ。
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折しも、ホリデーシーズンのイルミネーションに彩られる京橋エドグラン内のポスタルコショップにて、とっておきの『アルノーの緑』をはじめ、山田さん珠玉の模様石コレクションが展示され(2024年1月8日まで)、再びマイクさんとの対談の場が設けられると知って訪ねた。
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明治屋脇の施設。外に自由に座れるソファもたくさを配されゆったりくつろげる江戸風の粋な空間感が佳い。ポスタルコは京橋の渋い雑居ビル内にて日本での始業したが、また重厚な歴史的建造物が多く残存するこの地に戻ってきたのはマイクさんの心を奪う悠然とした土地の風土やムードがあるのではと想像する。現ショップの内外観の洗練さは他では見られないもの。どこかマンハッタンのクラシックな美的センスを感じるのはぼくだけだろうか(マイクさんの実家はカリフォルニアみたいだけど)。
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「ホリデーシーズンなので美しいものを見たくて」とマイクさんが企画した『地球からのドローイング 山田英春コレクション』。店内には山田さんが集め、自ら裁断し、磨いた美しい石がディスプレイされている。石はもちろん、展示に用いた什器がまた素晴らしい。センスの良い飾りかたを観て学べる絶好の機会でもある。
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さて、1時間15分に及ぶ対談は、どんな作為的アート作品もかなわない自然な模様を描く石の不思議な魅力に魂を奪われた者にとって至福すぎるひとときだった。
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山田さんが復刊版の装丁を手がけた『石が書く』(ロジェ・カイヨワ著、創元社刊)がまず話題に挙がり、この書と出会わなかったら、模様石に関心を抱き始めることはなかったと山田さんが述懐。その告白を聴き、詩的である意味難解なこの書を改めて熟読してみようと思った。
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同方向を志向しつつ、両者の好みが微細に異なるのを感じ取れたのも良かった。山田さんが原石に手を加え、隠れた模様を晒し、磨きをかけて色彩の美を際立たせるまで探求しているのに比して、マイクさんは引いた目線、控えめに石の佇まいに心奪われている。参加者に回された私物のテレビ石、店内にさりげなく掲げる、1800年代に印刷されたドイツの鉱物画リトグラフやポスタルコ製品『ミネラルキーホルダー』の情趣、さらにはそれぞれについての説明に嗜好がよく表れていると思った。ぼくはどちらの好みにもときめく。その曖昧な立ち位置でこれからもずっと石を愛でていきたいと望み、認識を再確認できた夢心地な宵だった。
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このトークイベントに連動するよう販売された『ミネラルメッセージカード』を買うのも参加する愉しみのひとつだった。「ふつう物は拡大していくと輪郭がぼやけていくものだけど、山田さんの模様石はまた別の美しさがたち現れてくる」とマイクさん。カードはマイクさんの妻でデザイナーのエーブルソン友理さんのアイデアで模様石の一部を拡大している。その審美眼とセンスにまた唸らされた。
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メッセージカードをラッピングしたコンパクトな袋もポスタルコの魅力が凝縮している。モダンにして控えめなデザインと実用的な紙質とサイズ。袋を開いて一枚の紙に分解し、山田さんの著書のひとつ『石の世界』(ちくま新書)に当てがってみたらカバーとして包むのにジャストサイズだった。
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この気が利いた偶然に驚きながらポスタルコへの敬愛をいっそう深めた。
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