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バブアーの修繕 前編

90年代に三井物産が輸入代理店だったころ、日本橋三越で購入したバブアー・ゲームフェア。オイルがベトベトな一着にすぐさま袖を通して銀座線に乗車したとたん、乗客から不快そうな表情で刺すような視線を一斉に浴びた。直後に寄った銀座シップスでオイル抜きの別注品を見つけて、ついさっきの買い物を激しく後悔。結局、鼻をつくオイルの匂いが気になって、その後30年あまり街着にするのがためわられ、数えるほどしか着用していない。

そんな苦々しい記憶をずっと引きずって屋根裏の肥やしと化していたバブアーを日常着にしてみようと思ったのは、みすぼらしく汚れた風合いがドカジャン風で植木仕事の現場まで羽織って行くのにふさわしく感じたから。と、久々に引っ張り出してきたら、経年劣化からか、所どころ生地が破れ裂けていて呆然。ポケットのスナップボタン周囲も綻び、実用性すら損なっていた。長年の放置を詫びながら、これからの半生は着続けていこうと心定めて修繕を決めた。

自身で直すことも考えたけれど、糸仕事がど素人のうえ、ポケットの縫製をいったん解くなど複雑そうな作業が無理と即断。まずはプロのお直し屋さんに依頼した。ネットで検索すると、古びたバブアーを得意にする業者がいくつかヒットしたが、千葉県柏市の「goemon」を選んだのは店主、矢島さくらさんのセンスに惹かれたから。

あえて本体とは異なる色の生地を貼り縫いする、修繕跡が明らかなパッチワーク風仕上がりがとても魅力的に思えた。3ヶ月間預けて受け取った再生バブアーはリペア好きな自分の嗜好にぴったり沿う風合いに。愛着増しましになったゲームフェアを誇らしげに着て、バイクで風をきって職場に向かったのだが・・・。

つづく

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