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水の戸をめぐる散歩 前編
先月「Mの旅」と題して益子と水戸を車で日帰り旅行したが、目的をあれこれ欲張りすぎ、夕方以降の水戸探訪が浅く物足りなく思った。それで水戸だけに絞り、電車で再訪し、じっくり歩きまわってみたのだった。
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海や川の水が出入りするところ。それが那珂川、桜川、千波湖に囲まれた台地、水戸の地名由来だそう。豊かな水の都だから歩くとおのずと水域に行き当たる。もとより穏やかで歩きやすい街だけど、さらに水辺にはゆったりと遊歩道が整えられ安息深き散策を楽しめる。水戸駅に着いたらまずは昼ごはんをと目をつけておいた食堂をGoogle map頼りに目指したら備前堀に交わって心奪われた。かつては千波湖から、現在は桜川から取水する堀には柳の樹々が風に揺れて風情たっぷり。その優美な景色を観ながら堀沿いを悠然と進んだ。こうした車が通れない水辺の「こみち」が水戸には充実しているようだし、そんな歩行者贔屓のエスケープルートを随所で選択しながら移動可能な街にぼくはとても惹かれ、暮らしてみたいとすら羨望する。
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「ハミングロード513」とも呼称される歴史ある本町商店街の一軒、「伊勢屋」の暖簾をくぐる。凛としたクラシックな佇まい。地域で愛されるカジュアルな名店らしきムードが満々だ。
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軒先では和菓子やいなり、ドーナッツを売っていて客が途絶えない。その活気、気取らぬ商いがたまらなくいい。
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一見の自分は基本のラーメンにあやめと餡のだんごを組み合わせた。ほかにも店頭に並ぶものは自在にサイドオーダーできるのだろう。朗らかで元気な女性店員たちのリズム、厨房とのスムーズな連携感も小気味良い。注文したら驚く速さでテーブルに運ばれてきた。
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気分よく食事し、さっと店と商店街をあとにして向かったのは那珂川そばの地域。途中、水戸納豆の老舗「天狗納豆」のディスプレイを見上げつつ足早に町道を抜ける。
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凸版印刷の広大な敷地を脇目に進むと、旧町名「細谷門前町」に入りこんだ。この石碑の位置は事前にGoogle mapのストリートマップで確認し、位置をマップ上にマーキングしておいたから迷うことなくたどり着けた。土地勘のない場所では入念なリサーチが時間限られるショートトリップでは何より必須だと考えている。
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門前という旧地名ゆかりの「宝鏡院」跡地には蒼い眼の猫がくつろいでいた。父の話ではぼく(クノ家)の一族がこのあたりで大きな米屋を営んでいたようだが痕跡は皆無。しかし、界隈ですれ違う年配者の風貌はどことなく父に似ているような(笑)。マイ・ルーツに邂逅した感慨が湧き上がってきた。
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那珂川の土手を上がって歩く。土も廃屋も覆う植物の生命力に息を呑む。再建された寿橋の緑色が風景によく馴染んでいる。
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木造だった寿橋が近年の那珂川氾濫で流失するまでは現・寿橋の少し下流、水戸藩政時代には「新舟渡」と呼ばれる地域に架かっていた。父が戦後に親戚を頼って移住し、小学3年生から5年生まで生活した家は旧寿橋のたもとにあった。『Mの旅』では対岸のひたちなか市枝川側を誤って探索してしまったが、今回の旅は父への聴き取りをし直してのリベンジ。その勘違いが再訪を促してくれたが、そもそも旅立つ理由をぼくは単に欲していたのかもしれない。
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昭和9年の市町名改正で「細谷町」と変わった地域だ。父から伝え聴く昭和初期の面影は無いが、父の住まいだったスポットには「K」の名を冠したアパートが立っていた。クノ、あるいは大家さんだったカシワさんのイニシャルか。偶然に縁を感じた。
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河原に戻り、たぶん二度と来ないであろう父、思い出の地を見渡し、水戸中心部に戻ろうかとしたとき足元に埋まる物体に眼が留まった。
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かなり古そうなガイシだ。リバーコーミングよろしく土中から掘り出して眺める。「東」のロゴがあるから東芝あたりの製造品かな。ずしっとした重さでペーパーウェイトに良さそう。この出会いも縁と思い持ち帰ることにした。
つづく
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