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週末の午後、鎌倉へ

人混みが苦手な自分には、週末の鎌倉中心部に足を運ぶのはかなり大冒険ともいえる行為。たまたま由比が浜近くの回転寿司店で外出中の妻と晩御飯を食べようという流れになり、少し早めの16時ごろ鎌倉駅東口に着くよう目指した。17時には小町通りに立つ日帰り観光客相手の多くの店がシャッターを下ろすから、タイミング的には賑わいが落ち着き始める時間帯。行列必至のあの人気カフェももしかしたらと期待したら、ほんの数分待つだけで席に案内された。

毎日店頭に立って自らコーヒーをドリップするかたわら深夜の焙煎、執筆、選曲、早朝からのラジオ生出演など世界一忙しいマスターなのではと思う堀内隆志さんが営む「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」。

すっかりご無沙汰してしまったけれど、相変わらずスタイリッシュで心地よい店内では堀内さんが激務のなか穏やかな笑顔を浮かべていたし、若いスタッフたちの明るさや元気が醸す雰囲気からいっそう輝きを増しているよう感じた。この地で開店して29年、さらに魅力を強めている様子に驚き、「好き」をずっと続け、高める仕事ぶりにひたすら感服してしまう。

お目当ては『和栗のプリンパフェ』と深煎りのコーヒー。十三夜(豆名月、栗名月)の翌日夕暮れ、豆と栗の美味しさが沁み、しみじみと感動。洒落た愛らしいミニカボチャのさりげないディスプレイ含め、セレクトの妙と華に、ここはやっぱり唯一無二のカフェだと再認識した。

小町通りを素早く抜けて若宮大路へ出て、アバさんこと魚住(ウオズミ)さんの洋服店「beach dog's cafe」へ寄る。

今日も晴れているから開店してるだろうなと近づくと、店前のベンチに居た、居た。まったりとくつろぎながら、時おり鋭い眼光で目前を横切る歩行者のファッションをウォッチングしている魚住さんが。

25年ほど前に知り合えて以来、湘南の雑誌記事や書籍制作で取材させてもらったこともあり、抜群の洗練した審美眼を心から尊敬しているんだけど、いつものようにたわいもない近況話を互いにだらだら楽しんでいると、緩くとぼけた人柄にも魅せられ、ついついくつろぎ過ぎて長居しちゃう。かつては雲の上の、憧れの先輩だったけれど、だいぶ近しく思えるようになってきたような。ぼくもそれなりに美しく格好いいものを見いだす経験を重ねてこれたってことなのかな、と嬉しくなったり。しかし、ぼくと違って自分の好きを貫いて、ひとつの仕事で生き抜いている魚住さんはすごいなぁ。

しばらく顔を合わせていないのに、最初にきりだす話題が共通の直近的な関心ごと、という偶然に不思議な共鳴感を覚えたり。この日はとても安くても質は高いファッション製品についてと、セルフリペアのメリットをテーマに話しこんだ。たとえば言及したものの一端がワークマンのシューズ。最近、魚住さんが入手した一足がなかなか良さげと取り出してきた。

彼は特価セール品のスニーカーから宝物を掘り出す才に長けているんだけど、ぼくが真似して欲しいと願っても完売済みで叶わない残念ばかりだった。ところが高耐久を謳うこのシューズ『FieldCore アクティブハイク』(1,900円!)は現在も各店舗に在庫があるよう。これはレアなケースだと歓喜し、試し履きさせてもらった上で最寄りのワークマンに取り置き依頼した。近々にお値打ちがあるかを試してみよう。

パタゴニア鎌倉ストアや農連市場もある若宮大路のこのあたりは駅から近いのに、とくに暮れなずむ時間帯は犬の散歩や買い物に出かける地域住民がメインの通行者となる。歩道の主(ぬし)然とした魚住さんの知り合いは前を通るたびに会釈し、ときにはひと声かけてくる。このなんとも悠然としたローカルな平穏さにぼくは深く心安らぐ。また、本当の鎌倉時間を愛しみ陶然としていたら、ぼくと魚住さん共通の友人、材木座の建築家、森ヒロシさんの姿が眼に入った。

ライカSL2』をたすき掛けする森さんは葉山一色の海と山近くに立つぼくの家を設計してくれた人であり、散歩スナップの名手でもある。久々に会って写真と機材ネタで盛り上がり、気分良く寿司店へ。こんな佳き流れの週末。勇気出して、いざ鎌倉に出向いてよかった。

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