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羽根木のオアシス

世田谷区羽根木。30年近く都内で仕事して一度も訪ねたことが無かったのに、ミュージアム&ギャラリーショップ「out of museum」とその店主、小林 眞さんに出会って以来、最近はほぼ毎月足を運んでいるのだから地域との縁は不意に降りてくるものだ。

逗子から湘南新宿ラインで新宿へ。そこから京王線で2駅。最寄りの代田橋駅周辺は新宿駅構内の嵐みたいな人の激流とは対照的で、静穏さに心鎮まる。店までは住宅街の狭い路地を抜ける最短ルートでスタスタと足早に向かう。

「out of museum」の扉を開くたびに今日は何に遭えるかと胸が高まる。こんな昂り、しばらく忘れていた。小林さんが旅で蒐集してきた物ひとつひとつに情愛が宿っている気がして息を呑む。それこそ呼吸を止めて見つめ、造形、佇まいの惹かれる物を捉えたら、ふぅーっと息を吸い、値を尋ねる。発掘の状況、物のプロフィールを質問するのは野暮だろう(と言いつつ、ついつい聞いてしまうのだが〈笑〉)。自分の嗜好をもとに心眼、直観で選ぶべし。

この日は眼ヂカラに圧倒され心奪われたフクロウに手を伸ばした。こんな力みなぎるフクロウを眼にしたのは初めてだ。何かと心折れがちな自身の脆弱なハートに喝を入れてくれそう。

家でもっとも心身を休ませる居間の「眼ヂカラコーナー」棚に加えたら、場の雰囲気がグッと引き締まり一変した。なんか霊力すら漂うような。この眼にぼくの日常を護ってもらおう。

雑誌『POPEYE』最新917号連載「ぼくの伯父さんを紹介します。」にて小林さんについて岡本仁さんが飾らぬ言葉で綴っている。「out of museum」の立地を紹介したキャプションに「このあたりは緑も多く、ぜひ散歩してください」とあったので、小林夫妻に近所でお気に入りの場所を教えてもらった。

「羽根木の森」と呼称される、巨木が奇跡のように残り林立する区域を夫妻は挙げた。かつて暮らしてもいた場で、大木に惹かれて人が集まってくる空間なのだという。

深い陰翳を生むゆったりとした木陰にはモダンな集合住宅や個人邸が群居し、閑静と洗練が豊かな緑に溶けこむ景色、風情に眼と心を奪われた。環七からほど近い環境なのに、樹々に護られた神域には澄んだ美しい光と空気が満ちていて別世界。都会でも森林を活かすことで、こうした桃源郷を創出できるんだと感じ入った。

自分には完全な夢の世界だが、軽やかな竹垣+生垣の造作やワイヤーを菱形に張って蔓性植物を壁面に這わせるアイデアに唸るとともに自宅でも真似してみようと、写真を見返しながら考えた。次回は森の一角にあるアイスクリーム店に寄りつつディテールを観察してみるかな。

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