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蓬春&五十八の数寄屋画室

ぼくが暮らす葉山町一色には画家・山口蓬春が晩年を過ごしたアトリエ兼自邸があります。

家から歩いて数分、三ヶ丘山緑地(大峰山)のふもとに立つ、建築家・吉田五十八が画室をはじめ増改築の設計を手がけた瀟洒な数寄屋建築と植栽豊かな広い庭は、温暖で光が満ちる風光明媚な風土を象徴する空間。折しも、新旧画室のインテリアを中心に、二人の美意識の交流とモダンなセンスを観覧する企画展が始まる情報を土曜日朝のゴミ出しの際、町内会の告知板で得て、開催初日の一番乗りで訪ねてきました。

まずは「桔梗の間」へ。雪見障子から見える露地の情趣、差しこむ光の陰翳に心鎮まります。山口春子夫人が茶の湯をたしなんでいたことから、この部屋で茶会もひらかれたようです。それにしても畳を照らす三角形の光が劇的。この造形を創出するアイデアに唸ります。

その階上には「旧画室」が。三角形を組み合わせるテーブルのデザインも五十八作。今も褪せない独創性は蓬春の口添えもあっての産物なのでしょうか。この部屋からは長者ヶ崎と葉山御用邸前の岬「小磯の鼻」を遠望でき、海景と南東(午後は南西)から陽がふんだんに入るさまから、蓬春が日常的にどんな景色と光を見つめ、作風に影響を受けたか体感できる気がします。

旧画室脇の手洗い場。緑青など銅板が経年変質した模様が妖しく、見惚れてしまいます。ここで絵の具を洗ったりしていたのでしょうか。

そして新画室も拝見。作品のモチーフにもなった庭の緑がドーンと視界を占める、大窓の開放感が圧巻。これぞ数寄屋建築の近代化を目指し、実践した五十八の真骨頂なのかな。具体的にはどんな意図があっての工夫なのか、五十八の研究本を読んで勉強しなくては。そのための識る前の観る。

蓬春好みの小物が画材のそばで愛らしく並ぶ。それぞれにお茶目な洒落っ気を感じて、ひとつひとつ焦点を合わせたくなる。ずっと畳に横たわって絵筆を走らせていた蓬春ですが、この新たな画室では座って描きたいと要望し、五十八が応えたとか。

創作合間の息抜きはロッキングチェアで。やっぱり身体をゆらゆら緩めると和み極まるね。と、親近感湧く。

床に煌めく幻想的な光。朝の斜光がガラス表面の紋様を映しだして魅せられます。外光の侵入角度をもとに、ここの空間感を満喫するタイミングを考えると、快晴日の開館直後(9時半)がベストかなと思います。これから冬が深まり、照射角がいっそう低くなる時季はなおさら。

12月中の朝はまだまだ冷えこみが緩い海辺側、南向きの葉山一色、蓬春邸。山と海からの風に葉とその影が揺らぐ情景、小鳥たちが囀る耳に心地よい音を愛でられるのは朝のご褒美。

常緑の大木も多く育ち、その周囲に漏れる光の点景も息を呑む美しさ。ただただ感動して写す。気づいたら100カット近く撮ってました。こうまで写欲が昂ったのは久々。それだけ、絵心を激しく刺激する植栽なのでしょう。さすが、蓬春が愛しんだ庭です。

さて、今宵は蓬春邸の隣りで写真家・上田義彦さんが撮影、監督した映画『椿の庭』を観たり、建築家・藤森照信さんが吉田五十八の設計作法をひもとく『五十八さんの数寄屋』を耽読して深い深い余韻に酔いたいと思います。

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