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ジャックのビーチへ

秋になると憩いに行きたくなる南房総の海辺。湘南と違って海水浴シーズンを終えると、たちまち渋滞知らずの、のどかなカントリータウンと化す半島を南下して行く小さな旅に心焦がれるほど惹かれる。

というわけで、横須賀市久里浜から朝いちばんの東京湾フェリーに乗って対岸の千葉県金谷に渡る。

わずか所要40分だけど、旅情は存分に味わえる。船旅はじつにいい。

馴染みのルートだからナビは不要だが、クアッドロックのバイク用マウントを試したくて、iPhone12miniを専用ケースに包みハンドルに装着。Google mapを起動しながら海沿いの道を移動。晴天下でも画面の視認性は良好でかなり便利。ただしバッテリーの消耗が激しいので、急速充電用のモバイルバッテリーが必携。

目指すはフリーダイビングのレジェンド、ジャック・マイヨールが愛した館山市坂田(ばんだ)のビーチ。2007年冬発行の雑誌『海楽4号』(エイ出版)で、ぼくはジャックとこの海との関わりを熱量たっぷりに綴った。彼の親友であるダイビングサービス&スクール「シークロップ」オーナー成田 均さんの人柄に魅せられ、20代のころほぼ毎週末、東京佃島の実家から坂田に通い海に潜った。この地で成田さんとジャックに出会えたことが、のちに13年間に及んでスキューバダイビング専門誌の編集者になるきっかけとなった思い入れ深い場所だ。

まずはひと気の無い坂田海岸で小一時間ほどビーチコーミング。海から流れ着いたヤシの実と赤漆の椀、サンゴ(キクメイシ)の化石、白く風化したイモガイを拾う。想像できないほど長い漂流、漂白の時間経過に想い馳せながら。ここはサンゴが生息する日本北現地でもある。

200種を越える、その海中の多様な魚種数について1988年から1990年にかけて『フォト・デ・ポワソン』という大会に参加しつつ、水中調査したことがある。

流木より風情ある立ち枯れした木が在る風景。このワイルドさは葉山を含めて三浦半島には無いかな。字面で伐って、この立ち姿のままオブジェとして飾ったら素晴らしく格好いいなぁ。自然が創った至上のアート作品。

そして、ジャックが真冬でも水着で寒中水泳していた静かなビーチへ。このあたりには海際に別荘が点在し、私有地の一部なのかビジターにはわからない小径があり、プライベートビーチ化した小さな砂浜に続いている。ぼくはこの静穏さに満ちた雰囲気に魅了され、仕事さえあれば坂田の海辺で暮らしたいと、かつて夢みていた。今の住居は葉山一色海岸を望む地域だけど、坂田には観光客の姿がない完全ローカル、平穏な雰囲気があって未だに憧れ続けている。

enoのチェアに深く身を沈めリラックス。造園仕事で履きこんだ富士姿のデニム製乗馬ズボンに合わせて、フランスの漁師がワークウェアにするというアルモリュクスの『フィッシャーマンズ・スモック』(古着)を羽織っていたが、9時近くになると汗ばむ陽気となり、たまらず脱ぐ。坂田は真冬でも晴れた日の昼間はTシャツで過ごせるくらいの温暖地なのだ。

セブンイレブンのオンラインフォトサービスを利用して制作したTシャツを下に忍ばせていたのはジャックゆかりのビーチへのオマージュ的心情から。プリントした写真はポラロイドSX-70でのスナップ。『海楽』のロケで寄ったジャックの別宅「ジャックズ・プレース」(成田さんが彼のために購入した古民家)に飾ってあったフリーダイビング用マスクを撮らせてもらったもの。今は再現できない当時のポラロイド写真の淡くて緩い独特の描写がTシャツのモチーフになかなか良い感じでは、と自己満足。また1時間ほど憩ってから館山駅前の喫茶店「MON」へ移動して昼食。

辛口の『フライドエッグ・カレー』を大盛りでいただく。地元密着の一軒。コクある欧風カレーは東銀座「ニューキャッスル」の『辛来飯(カライライス)』に似た味わい。懐かしく、病みつきになりそうな美味しさだ。

駅前に来たら寄らざるを得ないでしょう。館山のソウルフード店「中村屋」に。食パンを買ったあと、名物の『モカソフト』(300円)にまた心酔。駅前店、バイパス店ともpaypayが使えるようになっていたよ。半日足らずの弾丸旅。館山から金谷へ急行して13時台のフェリーで久里浜に還る。

忙しなく三浦半島に戻ったのは、館山に通じる温暖なビーチタウン野比の「takahashi coffee」に寄って最高のドリップコーヒーと自家製ケーキを堪能したかったから。

坂田のビーチにて電話で取り置き依頼しておいた大好物のモンブランとアップルパイを、お任せで選んでもらった中煎りコーヒーとともに愛でて深く深く心酔。2周年記念のケイクフェア(10月21日まで開催中)、そのお得なタイミングを逃さなくことできて安堵。葉山に戻る前、さらに大矢部の「湘南製餡」で小倉トースト用の滑らかな粒餡も買い足す。普通の人の3倍速で動いた、おひとりさま流勝手気ままな休日。短くも濃密、充足すぎた多幸感からか興奮が冷めず、夜なかなか寝つけなかった(笑)。




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