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冬のカーテン

晩秋というより初冬めいて朝晩の冷えこみが厳しくなってきた。寒さに身体が順応モードに移行しようとすると、今週は気温が一カ月前に逆戻り。戸惑いつつも、適度な雨降りと穏やかな寒暖差が仕事で育て始めた新たな花々には塩梅よく、おおむね今季の流れを歓迎している。陽が落ちるのがめっきり早くなり、平日は家に戻ると室内はすでに薄暗い。それで油断していたのだが、よく晴れた週末、日没前に居間で和んでいたら、西向きの大きなサッシ窓から強烈な陽光が差しこみ、短時間とはいえ書棚や壁にかかる写真を暖光で焼くさまを目の当たりにした。束の間の日焼け。レンズを介して太陽光を一点に集めて火を起こすような、冬特有のスポットライトに大切なものが晒される。サンシェードを外してしまった窓にこれはたまらんと、あわてて分厚い綿布をあてがった。

外光を柔らげるインド、スウェーデン、李朝、日本製布の連合群。その右端の最重要防御箇所にアフリカ、マリの泥染め布(ボゴランフィニ)を垂らした。バンバラ族が手紡ぎ・手織りした細幅布を縫い繋げた布を泥染めした一枚。西陽に向けて撮った上の写真では茶色に染まって見えるが、無地の柔和な白。太糸でざっくり編まれた素朴な質感に惹かれて27年ほど前、葉山町堀内の海辺にあった雑貨店で入手した。

布の端にこれまた大らかな風情のビーズが留められる景色にも心ときめいた。この緩いハンドメイド感、アフリカの部族のセンスに魅せられ、確か1万円を超える値段だったが、衝動的に欲しくなった。葉山に移住して初のインテリア的買い物だったが、佳いものに出会えて本当に良かった。その自宅を兼ねる店は畳まれてしまったが、今でも軒先のショーウィンドウには華ある花が美しく豪放に生け飾られ続けていて、卓越した審美眼の店主に巡り会えた幸運も喜んでいる。90年代の葉山には都会では逢えない個性的な人物と空間が多々あったなぁと懐かしみつつ。アフリカ産だけど、これぞかつての葉山名物として披露したい。

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