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久々ひょうちゃん

久しぶりの土曜休み。みぞれが降った寒い日の翌朝はよく晴れ、近所の「ポコパン」へトースト用パンを買いに行く。家のそばに佳いベーカリーがある幸せを想いながら、山裾のこみちを歩くのが嬉しくてたまらない。晴れの日は開店早々売り切れてしまうこともあるが、この日は無事願いが叶い安堵。高揚した気分を抱えて、そのまま一色海岸に向かった。

波打ち際に立てば、潮まわりの具合や打ち上がる石の種類と数、それらの佇まいから収穫が期待できるか経験上瞬時に判断できる。自分が拾いたいのは1,500万年前に海が今よりも山に迫り、干潟を形成していた時代に生息した二枚貝の化石。一色海岸のごく限られた場所で、波の作用により砂中から洗い出されることもある。しかし、この日はそのタイミングではなかった。すぐに諦めて帰ろうとしたとき、馴染み深いひょうたん型の白磁器が眼に入った。崎陽軒の『シウマイ』箱に入る醤油入れ「ひょうちゃん」である。葉山や鎌倉のビーチでは海水浴客が残したもの、あるいは川辺や浜にゴミとして埋められたひょうちゃんがときどき表出する。海からの打ち上げ物を拾いときめく遊びビーチコーミングではポピュラーな戦果品で、コレクターもたぶん多い。

自分は関心が薄く、探索モードにそのかたちをインプットして歩いていないから滅多に出会えない。それでも数個は手元にある。左端と今回拾った右端は初代ひょうちゃん。1955年から1988年に製造され、表情は漫画家・横山隆一さんが描いた。ギターを手にするタイプは1988年から2003年製造の2代目。イラストレーター・原田治さんが描いた80種の絵柄のひとつ。これらのひょうちゃんは資料が残り、時代を特定しやすいことが集める人の興味を強く惹くのだろう。右から2番目のピンク色は楽陽軒が1963年以前に作っていたものと鎌倉材木座のビーチコーマー「打ち上げ採取日記」さんが明らかにしてくれた。崎陽軒のひょうちゃんより遭遇率はかなり低いレア物。10数年前、一色海岸でたまたまめぐり会えた。

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