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ベンチの工作

20数年、青山骨董通り近くにあったブックギャラリー&カフェ「IDEE」。店内に置かれた休息用ソファの座り心地があまりにも良くて現品を譲ってもらった。分厚いクッションが台座と背もたれに付いていたが、経年劣化で汚れが取れなくなって、思いきって除去した。ナラ素材のフレームは重く頑強で、そのうち活用しようと2年が経過。はじめはサイズが合うクッションを買って、また極楽ソファにしようと考えたが、街で見かけるベンチの機能と役割に魅せられ始めて、板を台座に貼り留めてシンプルにベンチとしてリファインする方向に変更。なにしろソファ時代は極楽過ぎて本を読んだり映画を観ようと腰掛けても、ものの数分で寝落ちしちゃって目的を果たせなかった(笑)。ぼくに必要なのはベンチが持つ適度な緊張感だったのだ。

まず着手したのは移動しやすいよう脚にキャスターを付けること。恵比寿の「P.F.S.パーツセンター」でキャスターのある世界観に触れ、イメージを膨らませるところからスタート。何しろ無精男ゆえ、重い腰を上げて前に進むには格好佳いイメージに感化されることが重要なのだ。DIYのモチベーションを得るために。

選んだのは耐荷重や丈夫な造りに信頼を寄せる「ハンマーキャスター」。脚に合うサイズは『155-R50』という製品だけ。公式HPでかろうじて一択できたときは小躍りした。なにしろハンマーキャスターでないとやる気にならないし、出鼻をくじかれるから。

前後のみに稼働するタイプの車輪。不意に動かないよう車輪径に合うストッパーをヨドバシカメラ通販で取り寄せ。1個から送料無料、翌日配達。素晴らしい!

台座に渡す板は湿気に強いヒノキ素材。家で使わなくなった棚を分解してリユース。材料代はタダ。お気に入りの工具を使ってトントンカンカン。

かたちは実家そばの製本所で見かけたパレットが着想源。武骨な雰囲気を大事にプラスネジで接合。

板の長さが足りない箇所は木端で適当にジョイント。長さがまちまちだけど気にしない。アバウト万歳!な日曜大工。

南方植物茂る庭を望む土間の南隅に置いたら達成感がこみあげてきた。やったー! 背後にある靴箱と納戸からの出し入れもキャスター付きだからスムーズ。

ギャッベを敷けば、ほんの少し尻の当たりがやわらぐ。夏は涼しく、冬は温かい。イランの工藝良品。分厚いクッションは快適過ぎて、ベンチ本来の役割から逸脱しちゃうからご法度。

ついでに背もたれにもプチクッションを掛ける。ほんのりソフトというのがポイント。確か30年ほど前にアメリカから取り寄せたL.L.BEANのハンモック用
枕。ほぼ未使用。しかし、自分は物もちがいいなぁ。

足元にはブタちゃんの蚊取り線香。日本の夏の香りを楽しむ。葉山最古のジェネラルストア「小峰商店」のデッドストック。何げに昭和初期の蝿採りなんかが埃をかぶっているから、侮れない名店。

夕暮れ時に腰掛けたら、もう劇的すぎて感動。

肘掛けそばには、江戸時代の大工が自分用に作ったという燈明台を配置。素朴ながらきちんと八角形に面取りしてて仕事は細やか。

森吉野さんから分けてもらった古瀬戸の燈明皿をセット。松山あたりの和ろうそくも佳いけれど、IKEAのチープなティーキャンドルがぼくの気分。深い灰色の闇に浮かぶほのかな、さりげない炎を見つめていると『陰翳礼讃』を読み返したくなる。

イランの吹き硝子でワインなんか呑んじゃったら、もうヤバい。幻惑の世界に酔い迷いこんでいく。あれ、もう完全にベンチの果たす役割から外れているけど、まぁいいか。これから、このチルアウトコーナーを少しづつバージョンアップしていきます。

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