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山歩きを誘うベーカリー

お盆休みのさなか、近所の低山を散歩。三浦アルプスの一端を1時間半ほど歩くショートコース。毎夏の盛りに向かいたくなるが、たいていはひと夏に一度きりというのが定例だった。それが今夏は土曜日ごとに目指す勢い。そのモチベーションの根源には山の麓にあるベーカリーの存在がある。

お気に入りのコースは葉山町を流れる森戸川の源流地が入り口なのだが、その起点そばに今年の春、自家製天然酵母パンの工房兼ショップ「earth7716ファクトリー」がオープンし、土曜日は朝8時から営業している(サマータイム)。とびきり美味しいパンを買って山に入って野鳥たちのさえずりを聴きながら食べるという至高・嗜好の行為をきわめてスムーズに楽しめるのだから何度だって通いたくなるのだ。

朝早めに出て、ちょっと山で過ごして、昼には家でくつろぎたい自分の願望をこのベーカリーが叶えてくれるもんだから、ついつい背中を嬉しく押されちゃう(笑)。先日も開店直後に電話して大好物のシナモンドーナッツを2個取り置き依頼してから店に寄って源流沿いの林道へ。

センスが素敵すぎるオールドトタンの小屋を横目に進めば葉山の異界に取り込まれる。そこは携帯電話の電波が届かぬ領域。

ショートコースとはいえ、源流から尾根に続くトレイルはYAMAPのナビゲーションなしには歩けない。事前に三浦アルプスのマップをダウンロードしておき、当日にアプリを開いて最新データに更新しておかねば道に迷うどころか遭難のリスクが高くなる。

トレイルでまずは深呼吸。木陰に涼み、木漏れ日の美しさ、森戸川の清らかさに見惚れる。そして、いよいよ源流の左右を恐る恐る移動しつつ脇道へと分け入っていく。

すぐに道の痕跡は消えてしまう。ここからはGPSで現在地を高精度にトレースするYAMAPのマップ頼り。マップ上のラインをなぞって道なき道を探索していく。尾根に上がる道がかろうじてわかり始めるまでの数10分はかなりスリリングで汗が猛烈に吹き出してくる。崩れたトレイルを慎重に進み、苔むす倒木の下をくぐり、蜘蛛の巣を払い、倒木の一本橋を渡る。ここを歩くたびに映画『レイダース 失われたアーク』の冒頭シーンでインディ・ジョーンズがペルーの密林で洞窟に侵入する映像を思い返すのはぼくだけだろうか。

尾根に達したらひと安心。冒険行の余韻に浸るゆとりさえ出てくる。数分で我がヒーリングスペース、観音塚に着き、休憩。

すっかり身体に馴染んだパタゴニアの初代トレイルランニング・パックをタブの木に下ろし、リラックス。

先ほど買ったドーナッツを、家で淹れてきたアイスコーヒーとともにもぐもぐ。あー幸せ。あれ、千手観音の手にはよく観ると丸い物体が。ドーナッツとの偶然の近似になごんでいたら東京からのハイカーがやって来た。

楽しく歓談し、情報交換。都内の人との会話を通じて、改めて身近に海と山がある町の恵まれた環境と、そこで生活する悦びが湧いた。

ゴールの葉山一色、実教寺はもうすぐ。フィナーレの光景がまた劇的。点光に包まれて夢心地で町に還る。

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