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「好き」の極地へ
審美眼を心底尊敬する葉山一色のO夫妻と親交が深い世田谷区羽根木のアトリエ&ギャラリーショップ『out of museum』を初訪問した。店主、小林 眞さんが集めたものが並ぶ空間。
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東京、いや世界でいちばん目指したかったショップの扉を開いた。ついに実現できたという高揚感と緊張感が混じる心境。
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人気セレクトショップのバイヤー、アート関係者、編集者がこぞって目指す聖地。いったいどんな人物が待ち受けているのか、ドキドキと中に入ったぼくを小林さん夫妻が柔和な笑顔で迎えてくれ、気持ちがすっとなごんだ。
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店内は二重構造になっていて、外側には購入可能なものが置かれ、ガラスで仕切られたアトリエ内側は小林さんの私物が本棚を中心にずらりと飾られていた。世界じゅうを旅して小林さんのもとに寄ってきたものたち。工芸品、アート作品みたいなオブジェ、造形や佇まいが魅力の工業製品のパーツ、模型や標本などなど。大量生産品ではなく一点物がテーブルや壁にディスプレイされ、ひとつひとつに見入ってしまう。
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自分が純粋に惹かれるものだけを集め、飾る私的なシーンを傍観し、「好き」の中核を探り、想像する行為はじつに楽しい。けれど、小林さんの嗜好劇場は心躍るなんて軽々しいもんじゃない。濃密な物への情念が心の奥まで響いて、ただ圧倒された。まさに「驚異の世界」。
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第一印象はチャールズ&レイ・イームズ夫妻の自邸「イームズハウス」の本棚を想起した。メキシコやイヌイットのフォークアート、日本の郷土玩具、海の打ち上げ物、昆虫のオブジェ、鉱石など雑多に、けれど骨子、法則に基づいて愛読書の前に飾る、あの棚に似ていると。
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無意識の働き、思考の道筋を詮索しつつ、ドイツの古い分子構造模型、イヌイットによるプリミティブな石彫、オリジナル作品、惹かれるかたちにレンズを向けさせてもらった。これらすべてに旅の記憶がこもっていると言う。アトリエでの収蔵は記憶を留めるためでもあり、カメラに収め残すことに近いと小林さん。大事なコレクションだが、手放す機会も皆無ではないらしい。店頭へ転じる幸運に遭うかもしれない。
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次の訪問ではどんなときめきにめぐり会うか。大きな期待を抱きつつ、ファーストコンタクトで入手したのは真鍮のベル。
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このタイプのベルは小ぶりで愛らしいものが普及しているが、こんなにも大きく重厚なものは目にしたことがない。無骨な道具で、いったいどんな用途で使われてきたのだろう。いったん私物の域から離れると記憶もリセットされるのか、物の由来、遭遇先もさっぱり不明だと小林さん。その超然たる自然体も驚異である。
→小林さんの物との関係性を知るにはspotifyコクヨ野外学習センター・ポッドキャスト番組がおすすめ。
「新雑貨論」第3回・前編
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