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櫓を直す隣人
近所で心躍る催しがあり、嬉々として出かけたものの完全な勘違い。自分本位の勝手な思いこみ予想とは大きくかけ離れた実際で、落胆してしょんぼりとすぐ帰宅。その姿を見かねたのか、2軒隣りの住人Sさんが声を掛けてきた。
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Sさんは葉山一色海岸をベースにする漁師。「ちょっと見ていきなよ」と指差した自宅脇の作業スペースには和船を漕ぐ昔ながらの櫓(ろ)が台に据えられていた。
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Sさんはエンジン付き小舟で海に出るが、岩礁帯で舟を操るには櫓を使うのが断然楽で安心だという。その櫓がだいぶ傷んできたので修繕しているところだった。
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櫓をいかに動かすと舟がまっすぐ進むか仕組みにまず触れ、そのためには角度をつける必要性を説いた。櫓の裏側にはその曲がり角度が細かく、大胆にマジックで記されていた。
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もともと自動車のトランスミッションを設計し、金型を造る職に就いていたSさんにとってこのようなコンマ単位の力学的計算などお手のものなのだろう。100年以上使われてきた元の樫材(水に浸かる箇所。船上で操る「腕」部はヒノキ材)にケヤキを削りだした「入れ子」(漕ぐ際の支点となるパーツ)を継ぎ足したり、持ち手をステンレス材に差し替えるなど、使い手自身の修繕は粗さもあるが、その無骨さが逞しく、自分の眼にはとても魅力的に映る。
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現在、日本で櫓を作れる職人は広島の尾道にただひとり。しかも高齢。風前の灯となった船具を今も重宝し、使いこなす人がこんな身近にいることが嬉しい。Sさんから深川の横十間川で櫓を漕ぐ和船に乗れるらしいよ、と聞き、あぁそうだと5年前春、この川で遭遇したときのスナップを見返す。来月あたり、タイミングが合えば乗船体験してみようかな。
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