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川辺嗜好

ぼんやりと思考をめぐらせる散歩の時間が大好きだ。ゆっくり歩く速さで景色を眺め、空気と光に包まれながら地域に自分を溶けこませていく。あてもなく目的もなく、ぶらぶらできれば佳いのかもしれないけれど、A型のぼくはコース取りのプランニングをきっちり行い、忠実になぞり、ゴールのご褒美を決めてから向かう。

ルートは人が少ない川辺を選ぶ率が極めて高い。水の際、それも川や運河、橋の近くを好んで志向するのはなぜなのだろう。DNAに組みこまれた遠い記憶が本能を刺激し、そうさせるのかもしれない。その理由を確かめる小さな旅に近々出るつもりだ。

先日はルーティンと化している、いつもの道をまた歩いた。佃島の実家から京橋宝町へ30数分の心安まる移動。温暖化で制御不能になった野生植物の繁茂を横目に相生橋をくぐる。

東京湾の海水と隅田川の淡水が出会い、潮汐でタイミングによっては激しく水が行き交う場所。幼いころから自然の脅威を感じて怖さを覚えてきた。その感覚はいまだに拭えない。

橋のたもとには鴨や海鵜など野鳥が定住。水質が向上してきたし、暖かく、餌も豊富。彼らには安住の地なのかな。

中央大橋を渡って八重洲通りの新川から八丁堀へ。週末は閑散とした地域にぽつんと立つ商家らしきモルタル壁の建物。その素っ気ない佇まいにたまらなく惹かれる。一階が仕事場もしくはガレージ。その階上が住居空間だろうか。ぼくが東京に住むなら、こんなリノベーションしがいがある簡素な昭和の細長い建物が佳い。静かな水辺の環境なら言うことなしだ。

隅田川と日本橋を結ぶ運河、亀島川沿いは理想の水辺。葦が川風にサワサワと揺れる葉音、水の流れを眺めながらの日々は快楽の極み。憧れで終わるから、Cawaii Bread & Coffeeのテラス席で30分ほど夢を観る。

夢から覚めないまま、宝町の清水建設ビル脇から地下へ潜行。都営浅草線から京急快特に乗り継ぎ、極楽な並列シートに心身を鎮め、葉山に帰る。実家の川辺から葉山一色の海辺まで所用2時間弱。このお気に入りなショートトリップ、できるだけ長く愉しみ続けたいな。

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