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続・流木の鳥

古物商タミゼの吉田昌太郎さん著『オルガの木靴』(目の眼)に載るおとり用鳥の模型「デコイ」の佇まいに惹かれて自分なりに、さらに素朴に流木のデコイを模作した。初めてのトライで意外と佳い感じに出来たので、調子に乗って2羽めを作ってみた。

抽象的、ミニマルな造形だった初作より実際の鳥に近いフォルム。これも『オルガの木靴』で選物され、オランダのデコイだという。具象に寄ったとはいえ作為は嫌味なく、ささっと手早く簡素に整形した雰囲気がいい。これを選んだ吉田さんの心眼はさすがセンス抜群だ。吉田さんがそのへんに転がる薪に差しこんだであろう5羽のうち1羽だけ選べと言われたら、自分ならどれにするだろうか。真っ先に直観で眼に留まったのは左から2番目の鳥。いちばん純朴な手の動きを想像できたからだ。この一羽を心に留めて素材を探した。

仕事帰りに寄った近所のビーチ、久留和海岸。竹や建材、船体の一部など漂着した流木の宝庫。相模湾の海流や沿岸流、地形が作用し、まるで引き寄せたかのように集まってくる。流木で何かを創作したい人には魅惑の場所だろう。着いて数分で頭に描いたかたち、雰囲気の流木を入手できた。多種多様なものが散らばっているのであまりに時間をかけると、あれこれ選び悩んでしまう。自身に探索時間の制限を課してパッと手を伸ばしたのは、製作にかける時間同様、インスピレーションを大事にするのが流木の鳥をかたどるポイントと考えているからだ。

すべて流木でパーツ構成しても良かったが、胴体部に相応しい流木に出会えなかった。オランダのデコイは胴体に加工しやすい粘土を用いていたので真似。ダイソーの『木粉ねんど』(税込110円)を使ってみた。廃材や間伐材を原料とした木粉が混じり、乾燥後は木のように固まって彫刻できるという仕様がうってつけだった。土台には久留和海岸と同じく、三浦半島最古の地層「葉山層」が露呈する野比海岸で拾った砂岩を選んだ。穿孔貝が開けた穴が木軸を差しこむのに都合良いし、風化深めた色合いも流木の風情にマッチすると予想した。

加工用の工具にカッター、ノコギリも用意したが、実際使ったのは30年来愛用する万能小型ツール『レザーマン』だけだった。搭載するヤスリがかなり使い勝手に優れ、こうしたラフな木材加工には事足りてしまう。

30分もあればできると甘く思っていたが、胴体と支える木軸、それを差す石との重力的バランスに難儀して3倍ほどの製作時間を要した。粘土は硬化するから顔とくちばし、胴体と木軸、木軸と砂岩の接合に利用可能なのではと考えたが接着力が弱く、結局は強力多用途接着剤『ゴリラグルー』による力技に頼った。シンプルで簡単そうに作っているオランダのデコイだが、実際に自分の手を動かしてみると、容易ではないと気づく。こんな発見があるから、プリミティブな造形製作は奥深く楽しい。3羽めは、どうやろうかな。イメージが嬉しく膨らむ。

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