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はじめての畑仕事@SHO farm

2020年4月中旬から国内外の行き来が制限され、旅のガイドを主に編集制作する自分の仕事は完全休業になっちゃいました。東京の職場に戻れるのはいつなのか、そもそも属する小さな会社が存続できるのかもわかりません。自分の仕事がこんなにもあっけなく必要とされなくなる事実に愕然として、どんな状況下でもなくてはならない仕事のひとつ、農業にとても魅力を感じました。大地を力強く踏み進む職に漠然と憧れを抱いていたときに、ぼくが暮らす葉山町一色のコーヒー豆焙煎工房「THE FIVE★BEANS」の森嵜 周(めぐる)さんが横須賀市長沢の農園「SHO farm」で畑仕事のお手伝いをしていると聞き、彼女の紹介で援農体験させてもらうことになりました。周さんと受け入れてくれたSHO farmの仲野夫妻に深謝しつつ、はじめての畑仕事で率直に感じたことを書き留めておきます。

無農薬、無化学肥料の野菜

SHO farmは2014年に開園した農園で、約100種類の野菜と果実を生産。県内のワカメやマグロ、米糠や砕米、剪定された木くず、鶏糞など地元の生物資源で「ボカシ」という有機肥料をつくり、できるだけ少ない肥料で無農薬野菜を栽培しています。肥料を与えないと植物自身がもつ生命力が引き出され、健康で味わい深い野菜が育つよう。そう言いきれるのは20数年前から無肥料無農薬野菜を選び、日常的に口にしてきた経験から。品種改良された種を農薬と化学肥料で育てる野菜とのおいしさの歴然とした違いを日々、心身で実感しているからです。SHO farmも適した作物を見極め、土を無肥料栽培に適したものに改善しつつ、肥料を与えない方向に移行中と代表の仲野 翔(しょう)さん。無肥料はやはり難しい?という問いかけにこう答えます。
「うちも挑戦しました。6年前に農業を始めて草を切り拓いて、今やっている開墾みたいな作業で雑草を燃やしてトラクターかけて、無肥料でカブの種まいたら、本当にビー玉ぐらいのカブしかできなかったんですよ。『奇跡のリンゴ』の木村秋則さんの話も知っていたし、無肥料こそいちばんいいなと最初始めてみたカブが結局小さいのしかできなくて、それを1つ30円とかで買ってくれるお客さんが何人いるかとなったら、やっぱりゼロなんですよ。で、無肥料の思想だけではご飯が食べられないなと思って、抗生物質を餌に混ぜていない近所の養鶏をやっている人から鶏糞を買わせてもらって堆肥を入れて土をつくることをまずやりました。それから6年が経ってある程度土がつくれてきたなっていう畑もあるので、そういうところは無肥料にどんどん切り替えていこうと思っていますし、すでに肥料を使わず耕さないでやっている畑もあります。肥料を入れるか入れないかは作物に合わせて選択し、徐々に肥料を入れる比率を下げていきます。土地によってはすぐに無肥料でできる畑もあるでしょうし、作物によってもあると思います。うちの場合は土壌の微生物を多様化させた後に取り組むべきだなとわかったんです」

ちなみに有機農業の基準では毎年10アールあたり4トンの堆肥を畑の土に入れることが基準ですが、SHO farmでは300kgとか多くても1トン程度に抑えているとか。この割合は農園が無肥料に向かっていることを示しています 。

現実を受けとめながら試行を重ね、提供できる品種の多さも確保しつつ理想を追求していく。翔さんのしなやかな思考バランスとセンスには独自の農業と個性を感じ取りました。化学肥料に頼らない土壌改良については以下のレポートがわかりやすく伝えています。
千年つづく農業を目指す SHO farm』(D&DEPARTMENT たべる研究所「土と根」研究)

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SHO farm のスタッフ。左より高木真歩(まほ)さん、田中悦子さん、仲野晶子(しょうこ)さん、仲野 翔さん、内田航生(こうき)さん。翔さんは筑波大学で農業経済について学び、農業経営アドバイザーの資格も取得。奥さんの仲野晶子さんは同じ大学で土壌化学を研究していたそうですから、夫妻の知識とスキルがフルに活かされた農園といえましょう。代々、継がれてきた農家ではなく、たまたま自転車で通りかかった長沢の風景にピンときて、なんと、縁のない地域の農家の人に「農家をやりたいので畑を借りたいのですが」と頼んだところからスタートしたという翔さん。ゼロから休耕地を開墾し、理想の農業を目指し、JUST DO IT!な姿勢と強さが圧巻です。

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NTTなどの研究施設が立つ横須賀市長沢の通研通りから少し入った場所にSHO farmがあります。畑が点在し、竹林や森、古い木造家がそばにたたずむ里山の風景が広がっています。

SHO farm
横須賀市長沢6-47-30
HP http://sho-farm.sunnyday.jp/   Instagram  https://www.instagram.com/sho__farm/

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SHO farmの直売所(マルシェ)に並ぶはかり売りの野菜。できるだけゴミを出さないようパッケージも最小限。買い物はマイバッグを持参しましょう。

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木のチップと竹のチップと米ぬか、水で発酵熱をつくる「踏み込み温床」。フカフカで、発酵中の内部から湯気が立つほどの熱を帯びていました。

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畑に隣接する小山の上にある鶏舎と、雛のいるところに「踏み込み温床」の原料を運んで敷きつめます。本来は夏野菜の苗を育てるための「踏み込み温床」ですが、これは天然のカーペットになって鶏たちが寒くならないようにという配慮から仕込んだものだとか。翔さん、優しいなぁ。

自給・循環型の小屋

ぼくにはいつかかなえたい夢があります。それは電力も水も火も自給し、インフラから決別するコンパクトな暮らし。雨水を貯めて利用し、太陽発電でスマホ充電やLEDライトの点灯など必要最小限の電力を産み出し、料理の調理と風呂水は薪を燃やす火でまかなう。トイレは水が不要で自分の糞尿を生分解して肥料にできるものにする。家は平家の小屋で壁は珪藻土で断熱し、暖房は薪ストーブ。分解組み立てができてモバイルハウスとして自在に移動も可能。さらには近くで薪や生活道具としてさまざまに活用可能な竹を調達でき、野菜畑を小さな庭で耕す。大きな災害にも左右されない自立した住居。そんな江戸時代に遡るような自給・循環型の家で生活できたらどんなに楽しいだろうと考えています。そうした諸々を実現したSHO farmの小屋はまさに理想そのものの姿。目にしたとき、しばらく立ち尽くして、自分たちでかたちにした実行力に対して尊敬と羨望の想いを抱きました。また、どんな状況でも生き抜ける力に向き合っている気分になったのです。オープンエアの景色のなかに立つ小屋からは揺るぎない意志が感じられ、たくさんの勇気をもらいました。

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SHO farmの小屋。竹の雨樋からタンクに雨水を貯め、食器の水洗いに活用。開墾などで刈った木を燃やし調理用熱源に。自前の太陽光発電システムで草刈り機などの電動工具や電池の充電、LED照明用の電気を自給しています。

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農園メンバーの真歩さん。元プロサッカー選手(しかもキャプテン)という卓越した運動神経をもち、引退後は鎌倉のタイ料理レストランで働いていたそう。畑の野菜を食材に創意工夫してつくる彼女のまかない料理は食材の良さを見事に引き出していて、援農のお昼が楽しみで仕方ありませんでした。それぞれがの得意、個性を発揮する場。翔さん、晶子さんの配慮で、各自がイキイキと働けている。そんな印象を受けました。幸せで充足した空気が農園内には流れているようでした。

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開墾などで出た枝をメキシコ 式かまど「エステューファ」にくべるまほさん。このかまどは海外からのウーファー(農業を手伝ってくれる人)の手を借りて完成させたそう。

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かまどでじっくり煮た春キャベツとふっくらと炊かれたごはん。おいしいに決まっています! 淀みない流れの一環にこのキッチンがあるのです。

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強風にあおられる鯉のぼりを仕舞う晶子さん。スタッフのユニフォームとしてまとうのはパタゴニア社から提供されたワークウエア。とても似合っているし、凛とした姿に作業の手を休めて見入ってしまいます。この格好よさ、これからの農業にとてもたいせつなんじゃないかな。そうそう、この足袋も佳いなぁ。全農クミックスの『軽地下ロングファスナーHC-7』。こはぜで留めるタイプではなく、ファスナー式だから着脱が楽だとか。

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パタゴニア社の無骨なワークウエア。現場作業員向けに開発され、畑仕事のハードワークにも耐える頑丈さが特徴。破れても鎌倉の修理部門でリペアしてくれるから、長く愛用できます。ちなみにぼくもパタゴニア 社のウエアのほとんどは修繕しながら20〜30年着続けていています。

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作業靴として翔さんお気に入りのビーンブーツ。底のソールは摩耗したらL.L.BEANにて交換可能で長く使えます。道具も使い捨てにならないものを極力選んでいます。

開墾から始まる

今回の援農では、この地域で安く借りられるという休耕地の草木を刈り取る作業を主におこないました。休耕地を耕し、野菜を育てる。そのはじめの第一歩を体験したのでした。その場所は長い間放置され、土が植物で覆われ、絡み合ったツタやトゲをもつ薔薇の繁茂が作業を阻みます。それらを刈り、地中深くに張られた茅の根を掘り起こす労力は途方もないものでした。さらにこの先には土を改良していく大変な手間が控えています。種を植えられるようになるのはいつになるやら。気が遠くなりました。開墾を含めて一日の作業でできることはとても限られています。根気強さが求められますが、あまり根を詰めすぎても続かないのではとも感じます。人間の都合で効率よく進めようとしてもどうしようもないのです。天気と相談し、地に足をつけて一歩一歩前に向かう自然体のおおらかな気構えが必要かもしれません。一方で、短期的な成果を求める東京の経済優先の仕事はなんだろうと思いました。ぼくもその活動にかかわってきたひとりですが、そうした仕事の方向に疑問が湧いてきました。将来、人間が新型コロナウイルスと共存できるようになったとき、同じペースに戻ることはできない気がします。

あと、もうひとつ強く印象に残ったのは現場の緊張感。草刈り機をはじめ、鋭利な農作業の道具はぼんやりしていると大怪我をしてしまう危険もはらんでいます。刈った草木の先端も尖っていて身体に刺さる可能性があるし、植物の分泌物に触れると破傷風など傷ついた肌が荒れることもありそうです。また、気温が高いと脱水症のリスクも高まります。そうした危険を認識し、防御のための服装や装備、そして集中力が大事だとよくわかりました。

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草木が茂り荒れた休耕地で草刈り機の使い方をレクチャーする翔さん。

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草を刈る援農者。作業は常に危険と隣り合わせ。

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鋭利な農具。扱いは慎重に。爪の形状に合わせた使いかたを教わると、除草作業がみるみるとはかどるように。そうやって徐々に道具に馴染んでいけることに、なにか根源的な悦びを得ました。

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刈った草を抱え運ぶ子どもたち。

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集めた草を燃やします。強風のときは中止。

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燃えた草。この灰が土の養分になっていくのでしょう。

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尖った切り口に用心しながら枝はキッチン近くに運び、薪に活用。

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作業はこまめに休憩を取ります。水分を補給したりするこのひとときが集中力を保つうえでたいせつ。この日は休耕地そばで成るサクランボがご褒美。晶子さんが娘さんのりこちゃんに赤い実を選んで渡す情景にほのぼの。サクランボは翌週にはタイワンリスに食べ尽くされてしまうと聞き、移ろいの速さに驚きました。

最高の昼ごはん

正直に告白します。援農でいちばんときめいたのはお昼ごはんの休み時間でした。なにしろ畑で採れたての野菜をたっぷりと青空の下でいただけるのですから最高の贅沢。都会では絶対に味わえません。この1時間が楽しみで午前も午後も畑仕事を頑張れる気がしました。真歩さんがつくる料理がおいしいのはもちろん、その日に初めて会った援農者たちとの語り合いにも心躍りました。さまざまな仕事や生きかたをしてきた人が集い、力を合わせて作業をする体験は得難いものです。そして、食卓を囲み互いの価値観を語り合う。こんなにも人は自由に、しなやかに生きているんだと新鮮な発見がたくさんありました。東京でも夜はひとつの集団から離れて、いろいろな嗜好をもつ人たちとの出会い、交流を重ねてきたつもりですが、湘南、三浦に暮らす人たちの個性はたぶん全国レベルでも抜きん出ていると改めて思いました。翔さんも人手が欲しいというよりも、こうしたセンスをもつ人とつながる機会になればと援農を受け入れているそうです。

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昼休みにスタッフ、研修生、援農者でテーブルを囲み、ごはんを食べる。この時間がじつに楽しみでした!

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三重で海女をしつつ宿を営む翔さんの従兄弟から贈られたアジが並び、まかないとは思えぬ贅沢な食事。

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収穫にも携わった野菜をいただくという貴重な食体験。

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援農に駆けつけたアウトリガーカヌー選手のケニー金子さん。見ていて気持ちいほどの食べっぷり。

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食事をしながら多様な生活、人生観に耳を傾ける至福の昼休み。

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「THE FIVE★BEANS」の周さんが差し入れてくれた和菓子。上2点は赤えんどう豆と黒糖の豆かん、下2点はSHOfarmの夏みかんを包んだ羊羹(photos by wagashi meguru)。彼女の手づくり。食後のデザートとして堪能しました。お裾分けが日常だった幼少時の記憶が蘇りました。自分の得意を自主的にさらりとシェアしあう世界。ここはまぎれもない楽園。

千年続く農業とは

SHO farmの農園に立つと、ほかの畑のようにプラスチック製品がほとんど目に入ってきません。小屋の材料も自然分解して土に還るものですし、直売所で並ぶ野菜もゴミが出ないよう梱包を熟慮しています。ゴミを出さない「ゼロウェイスト」の考えに夢中となり、畑で実践する翔さんが掲げる「千年続く農業」について昼休みに伺いました。
「千年続くためには、いちばんは化石燃料由来を下げていくこと。畑でよく使われているプラスチックマルチシートとかはすでに私たちは辞めているんですけど、(今はまだ使用している)防虫ネットもビニールハウスもプラスチック由来です。あとはトラクターとかも化石燃料由来。そういうものも辞めていきたい。ただすぐには辞められないので、たとえば燃料を天ぷら油に変えられるやり方を探すとか、ビニールハウスを辞めるときにはそのシーズンで1回きりで終わる野菜づくりを頑張る。そういうかたちで脱プラスチックを目指すことと、あとはこちらの働き方。これは最近やっと気づいたんですけど、無理に頑張り過ぎても身体が続かないなと。子供とゆっくり休む時間も持ちながら長く楽しめることも大事ですね。私が楽しむだけじゃなくて、まわりの人にも波及していって、さらにその子供とか孫とか。次の世代、次の世代と、どんどんピラミッド型に増えていくみたいな、そんなイメージの千年の広がりができたらいいなと思っています」

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ニンジンの苗を植えた畑で雑草の摘み取りをしているところ。実際に体験すると、中腰状態での地道な作業は腰に負担がかかり、年配者には無理だとリアルに感じます。右は葉山「オーシャンアウトリガーカヌークラブ」のデューク金子さん。アウトリガーカヌーで外洋航海をしてきたすごい人。

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ニンジンの苗。この葉のかたちと異なる雑草を抜いていくのですが、似ているかたちの草もあり、初心者は抜いてよいのかしばしば迷います。慣れてくるとだんだん「見えてくる」そうです。しかし、この作業は手間と要する時間が半端ない。日をまたいで着実に進めていく忍耐と、そんな悠然とした仕事のペースを自身に許せる寛容さが大事と感じました。

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カボチャの苗を植えたら、雑草を生えにくくするプラスチックマルチシートを張るのではなく、苗のまわりに木材系のチップを敷きます。チップを苗の近くまで運ぶのもなかなかの力仕事。これも年配者にはキツイでしょう。チップを敷くかどうかは作物によって異なると翔さん。

「ニンジンは一度草取りをすれば、収穫までもう一度草取りするかしないかで収穫できますが、ナスやカボチャなど長期間成らせっぱなしの場合は草取りを3回くらいしなくてはならず大変なため、あらかじめチップを敷いて草の予防をします。①草取り◯回の時間をとるか、チップを敷く時間をとるかという観点と、②苗を作って植えるか、直接畑に種をまくか(畑に種をまいて上からチップをかぶせると芽が出なかったりする)という観点で、チップをまくか決めます」

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準備の努力、苦労が実る収穫は農業の醍醐味でしょうか。手を伸ばしながら心が躍ります。化学成分の匂いがせず、植物の生命感に満ちたSHO farmの畑は収穫がとても気持ちいい!

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摘み取った野菜のそばに植えられていた大麦と小麦。穂がそよぐさまが美しく見入りました。これからどのように商品化されていくのでしょうか。今後の拡がりに期待してワクワク。

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まっすぐと目を見て語る翔さんの言葉は煩悩だらけ、物が大好きなぼくには眩しすぎて今はそっくり真似できそうにありません。でも、ゴミを出さないという考えは心に深く残りましたし、前述した自立した家に最小限の物だけで暮らすことも真剣に憧れているのです。まずはいただいた甘夏の皮を捨てずにオレンジピールにして活かす。そんな些細なことから始めてみます。

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