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江之浦測候所

石の深すぎる世界を覗き学び、感じ、視識るため数寄者、杉本博司さんが構成した江之浦測候所を初訪問。空間の背景と詳細については杉本さんの著書『江之浦奇譚』(岩波書店)と作家、朝吹真理子さんの解説を読むのが最適と思うので、ここでは個人的に強く惹かれたシーンを羅列し、ひとことを添えるに留めるというか逃げます(笑)。

ゴロタ石
入場してまず眼に留まったのは、真鶴産小松石を景石として三角形の苔庭に据えた石組。あえて二等辺を崩した造形がモダン。と、感じ入りつつも、より惹かれたのはその辺の海岸に転がっていそうなゴロタ石の球面。海の気配に気持ちが和む。イボ結びだけに留めた簡素極まる素朴な関守石も佳い。

石組
根府川石や江戸城に使われた原石など地域周辺の石材を配した通路。組み合わせに見入っていたらニホントカゲの幼体が視界を横切った。石を新たに据え立てる親方の背中が神々しい。

隧道
冬至の日の出を拝むための隧道(すいどう)に据えられた『光の井戸』。雨天時、井戸内の光学硝子破片に落ちる水滴の景色はどんなだろうか。茅ヶ崎Sashikiの紺色ハット、パタゴニアのエアコンシャツを纏い湿気を祓う自身をセルフィー。

崇拝
古代からの信仰心を呼び覚ます装置が随所に。竹林で風雨に晒される鎌倉時代の石仏を眺め、石造稲荷社をお参り。狐のフォルム、沖縄の骨壷『ジーシーガーミ』みたいな社(やしろ)がたまらなく格好佳い。榊の森を抜けて海辺の春日社社殿を参拝してUターン。参道に並ぶ春日灯籠と海。奈良には無い景色。

化石
榊の森を降りると路端にさりげなく6500万年前の木化石(珪化木)が据えられ驚く。地に馴染み過ぎて看過しがちだから眼を凝らそう。そのそばに立つかつての蜜柑収穫小屋には古代生物の化石コレクションが作業道具とともに飾られる。まるで生きているようなエイリアン三葉虫に息を呑んでいたら監視役の女性スタッフに話しかけられた。彼女はライカM4とネガフィルムの愛好家。愛用レンズを語り合いながら写真談義を愉しんだ。こんな出会いがあるからライカによるスナップはやめられないんだ。

露地
竹林を登り、最後に向かったのは杉本さんの真骨頂、露地エリア。千利休作と伝わる茶室『待庵』の寸法を模した『雨聴天』に差し掛かるころ、庭師が露地ぜんたいを濡らしていて、しっとりとした気に触れ、心潤う。蜜柑小屋のトタン屋根を被せた茶室の蹲(つくばい)は時代不詳の明日香石。細い真竹を通ってしたたり落ちる水滴の微かな音と穏やかな水紋に安息し、一服の茶をいただく風雅な気分になった。竹の花器がクール! 真似しよう。

#LEICA

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