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素人ほど佳い工具が必要

欧米人は不器用な人が多いから、拙いスキルを補う優れた工具が発案された。そんなまことしやかな説を聞いたのはいつのことだったか。真偽はともかく、欧米製工具の格好は断然良く、風潮を信じきって選ぶのを基本としてきた。

工具だけじゃない。工業製品全般も真っ先に魅せられるのは欧米の格好よいプロダクト。竣工して18年目を迎えた我が家の風呂場に設けたシャワー混合栓もドイツ、グローエ社の『グローサーモ3000』。シンプルで洗練された佇まいと、堅牢かつロングライフというジャーマン・プロダクトへの幻想から選んだが、わずか発売期間が1年ほどで廃盤製品となった(笑)。

しかし、さすがは安心、無難な日本製品とは異次元のグッドデザイン。上質な使い心地に満ち足り、水浴び、入浴のひとときを楽しんできたが、ここ数年はシャワーヘッドからポタポタと水が漏れて止まらなくなった。青森ヒバの浴槽に垂らして漏水を溜めるようにして我慢してきたのだが、だんだんと気になるようになり、高額になりそうな水道業者に依頼せずセルフリペアにトライすることにした。

2006年当時のデータ(提供/グローエジャパン)

販売元のグローエジャパン(株)にまずは問い合わせ。症状を伝えると『セラミックヘッドパーツ』の交換が必要と推察されます、と即答。さらに自己責任で修繕の旨を説明した上で交換方法を尋ねたら、パーツ説明のPDFを送付してくれた上に注意ポイントを教えてくれた。18年前の廃盤製品のパーツを現在も発売し、当時のデータを保存している体制。さらに技術者が本体の買い替えではなく、丁寧に治す、旧製品を活かす道を示してくれたこと。高価なグローエをあえて選んで良かったとしみじみ感動(笑)。

直販サイトではこのパーツが欠品中。入荷予定の11月から値上がるそうなので、すかさずamazonにて見つけて、送料込5,100円の適正価格で入手。これが水道業者を介したら値が2、3倍に跳ね上がるのかな。しかし、こんなマニアックなパーツをも平然と扱うamazon、凄すぎるなぁ。

庭にある水道の元栓を閉めるところからスタート。栓が完全に埋まっていて土中から掘り出したんだけど、普通はなかなか触れないところだよね。元栓の場所すらわかっていないかも。今回の経験で自身で水道の開け閉めができるようになり、緊急時に対処可能に。なんだか人生を生き抜くスキルがアップデートした気分。

北米「レザーマン」のマルチツールと「PBスイスツールズ」のマイナスドライバーを使って開閉ハンドルを分解。頑強で高精度なこのツールならネジを舐めることは皆無。今までさまざまなピンチを救ってくれた相棒だ。「ハンドルを外した際に、ヘッドパーツの軸に付いている部品は、画像(写真)を写すなどして、外した部品の元の位置がわかるようにされると良いと思います」と技術者。この助言、実際、取り付け直す時にとても役立った。

じゃーん、問題の要交換パーツ『セラミックヘッドパーツ』が露わになりましたよ。六角ボルトは17mm径。「ヘッドパーツは、固く固着している場合もありますので、メガネレンチやBOXレンチ(ソケットレンチ)などでの作業をお勧めします」と説かれていたものの、数多の舐めたネジを強引に緩めてきた最強ペアが控えているからと、ナメて取り外しにかかった。

北米「クレセントツール 」のバイスプライヤとスウェーデン「バーコ」のパイプレンチ兼用モンキーレンチ。これで幾度も難局をくぐり抜けてきたが、ヘッドパーツはびくともせず、歯が立たない。18年間ぶんの固着恐るべし。

唖然として、いよいよあのツールにすがるかなと、痛い出費を嘆く(内心はまた秀逸な工具を迎える理由が見つかり喜んでもいる)。ドイツ「ヴェラ・ツールズ」の『6003JOKERレンチ』である。独創的発想から生まれた接地面多き特殊形状でどんな六角ネジもがっちり捉え、わずかな回転角度で緩め、締めることができるスーパーなツールである。ネットで最安値のものを購入し、あてがってみると・・・。

あんなに苦労していた固着ヘッドパーツがあっけないほど簡単に緩んで、歓喜感激。やっぱりこれに頼って良かった!

左が古いヘッドパーツ。右が今回交換した新品。真鍮の輝きにうっとり(笑)する余裕が出たのは無事、自力で解決できた達成感から。

修繕コンプリート、やったー! 水漏れも無くなり、また20年近くこのシャワー混栓本体を使い続けられるかな。総費用は1万円弱。プロに任せたら、いったいどれほど請求されるのかな? 諦めずセルフリペアに臨んで、節約できただけでなく、自分で納得して吟味した日用品への愛着もいっそう深まった気がする。万歳!

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