見出し画像

三角に誘われて

仕事場そばの野比海岸にて昨年末、見留めてしまった三角形の石。

頂点が丸くエイジングした風合いに強く惹かれたまま年越したが、正月の午後、土間や居間を照らす三角の光に啓示めいたものを直観し、導かれるまま翌朝ビーチへと半島を南下。

人は三角の影に神を崇めるような妙を想起する。あるいは深層心理による必然なのか。

花畑での仕事に勤しむ冬の日常と同様に、着いたのは6時半くらい。今のタイミングでは、ちょうど朝陽が昇り始める頃合い。

まずは太古の地層を劇的に染める朱色を拝むように見つめて心鎮める。いつもは30分弱のタイムリミット内に波打ち際で眼が赴くままに石や打ち上げ物を探し求めるが、この日は休日。ゆったり過ごせる気持ちの余裕が嬉しい。

たまたま初めて干潮にめぐり会えたので、ふだんは見えない海水の下が露呈し、魅惑の造形をいくつか手元に寄せた。

まん丸に穴が空いた加工石らしき物、砂岩層から剥離した岩片、深海生物の巣穴まわりが凝固した『へそ石』、ハンバーガー状のシェイプと肌が心地よい丸石。新たなものが、こうして粛々と現れるもんだから堪らない。

そして主目的の三角石。頭頂部しか露わになっていなかったので全体像を観たくて、掘り起こした。サイズ感はヘルメットと比較して想像できるだろうか。底は穏やかなカーヴを描き、なんてこったい! いっそう好みな造形なのだった。砂上の部分だけ風と波で風化し、三角に至った遥かなる時間の経過と自然の作用に想い馳せる。試しに抱え上げてみようとしたら、とんでもない重量ですぐに諦めた(笑)。

心晴れ晴れと、すっかり明るくなったビーチを後にする。古代よりずっと静穏な環境を保つ砂浜が佇み、魅力的な町中華と良心的なパン屋、何よりとびきり美味しいコーヒーとケーキを味わえる野比の町に急速に心奪われている。この地に暮らすのもいいと夢見始めている。 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?