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我が家の工芸
90年代、シーカヤッキングの雑誌、書籍制作に注力すべく、秋谷海岸の漁師小屋でひとり暮らしを始めたころ。ボルボのステーションワゴンで神保町のオフィスに通勤する途中、頻繁に寄るインテリアショップがあった。目黒通り沿いの古い木造商家を活用した「MEISTER」(現、恵比寿の「DWARF」)である。イームズのオリジナル家具をはじめとするミッドセンチュリーモダンの用品に眼と心が奪われつつも、高価でとても手が出なかった。
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それらのかたわらでディスプレイされていたのが南部鉄器製品。ペーパーウェイトやアシュトレイ、深鍋、鍋敷きなど値段の手頃さもあって求めた。
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そのひとつがクラフトデザイナー、鉄器職人の馬場忠寛さんが手がけた蚊取り線香置き。馬場さんの南部鉄器はいろいろ迎え入れたはずなのだが、どこかにまぎれ埋もれてしまって所在不明(笑)。この器もつい先日たまたま発掘し、ベンチコーナーの足元に据えた。オブジェのようでしっかり用も足す実用品。かと言って、日用に欠かせないとまではいかない曖昧な存在。それくらい生活空間に溶けこむものだから行方がわからなくなるのかもしれない。
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作家の我が出過ぎたクラフト、デザイン作品には関心が無いが、馬場さんが1970年代に創作した鉄器はさりげなくモダンで、何よりふだん使いを大事にした職人魂も感じる。そのバランス感覚に自分は魅了されたのだろう。ほかにも柳宗理さんのキッチンツールなど普遍的な魅力を保ち続ける工業製品に「MEISTER」が引き合わせてくれた。その後、名もなき工人がつくる使いやすく美しい健やかな工藝品に傾倒していったのだが、その入り口へと導いてくれた学校のような店。高揚して通い、ときめいた当時の夢中が懐かしい。
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