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ハワイ、逗子、葉山のウィンドチャイム

25年ほど前、ハワイ・カウアイ島の海岸線ナパリコーストをカヤックで旅したとき、ウインドチャイムの音色に魅了された。北米人が営むB&B(朝食とベッドを供する宿)のプールサイドに掛けられていたのがニューヨーク、ウッドストック・チャイムス社のウィンドチャイムだった。谷向かいの断崖から滝がいく筋も流れ落ちる、水の精に包まれるような空間。そこで聴くそよ風が奏でる優しい音にうっとりと心酔し、ここは天国ではないかと心底思った。  

数年後、たまたまウッドストック・チャイムス社のウィンドチャイムを金沢文庫にあった趣味の佳い日用品店で見かけた。そっと触れ、『チャイムズ・オブ・ジャワ』と名づけられた音色をかすかに鳴らして確かめた。

ガムラン音楽を彷彿とさせる乾いた金属の調べが爽快で聴き惚れ欲しくなったが、チャイム自体のサイズが大きく、庭も室内も小さな住居には合わないかなとためらっていたら、女性店主に声を掛けられた。「そうそう、このチャイムはあなたみたいにそっと囁くように鳴らすのがいいの。ガチャガチャと大きく揺らすのは興醒め。騒音にするかどうかは使う人のセンスが問われるのよね」。音への嗜好が褒められたように思え、有頂天になって購入に至った。

同社のチャイムをつい先日、東逗子のアトリエで見かけた。山からそよぐ風に揺られ鳴る響きは緑豊かな場所に馴染んでいて恍惚と聴き入った。久々に耳にしたのは葉山町内での引越しを機に自身のチャイムは屋根裏に長らく仕舞ったままだったから。かすかに鳴らすというのは実際には容易くなく、隣家が迫っている住宅地では騒音の迷惑になりかねないのだ。やはりこのチャイムは北米みたいな広い住空間がふさわしいのかもとデッドストック化させてしまった。

窓の開け具合と掛ける位置を入念に試行、検討し、再び風の音に耳を澄まそうと帰宅後すぐに実行した。ぼくはかくも他人に影響されやすい主体なき男なのである(笑)。居間の寝椅子近くで海風に揺れるチャイム。シキヤンが海からの打ち上げ物で製作したモビールと動きが連動しながら微音を奏でている。気分はバリ島ウブドゥのリゾート。やばい、また怠惰にひたすら溺れてしまいそう。

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