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鉄磁鉱に魅せられて

はじまりは、地元のアーティスト榊 仁胡さんの個展を観たことに遡る。鉱物を絵の具にして、心を無に筆を動かし、鉱物がなりたいかたちを描く水彩画。

作品展示のかたわらで会場に何気なく飾られていた地味なマットブラックな石、それが磁石がピタッとくっつく鉄磁鉱だった。最初は気にも留めなかった。しかし、たまたま特徴を説明されたのが縁なのだろう。磁気を内部に秘めるおもしろさと、そこらに転がっていそうな、ありきたりの外観なのに、じつは地球の深部から噴出したマグマに含まれていた鉱石。その壮大なスケールに強く惹かれた。

家の近くで鉄磁鉱に出会えそうな場所はないか。ネット検索すると職場からバイクで5分ほどの野比海岸がヒットした。1,500〜1,800万年前に深海2,000〜3,000mに堆積したものが露呈する地層「葉山層群」を目の当たりにできるビーチ。マグマが固まった葉山層群の火成岩「蛇紋岩」は鉄磁鉱を含むことがあると知って、こんな身近にお目当ての鉱石があったのかと驚きつつ期待に胸膨らませてその地層を洗う波の際へ、仕事前の約30分寄るようにした。

毎朝4時半に起床してるから早朝の活動はちっとも辛くない。けれど冬の冷え込みが厳しくなり三浦半島を縦断、南下する30数分の通勤中、寒さが心身に沁みるようになってきたところでにわかに始めた「朝活」。目的があると、ワクワクして心熱くなり、体感的にも冷えがさほど気にならなくなるから不思議だ(笑)。活動初日の成果はすでにレポートした通り。超強力なネオジム磁石でいきなり鉄磁鉱の小片を拾い上げることができちゃったもんだからたまらない。すっかり夢中になって嬉々として連日、朝活に打ち込んだ。

磁石につく石の色、紋様、風合い、肌触りを覚え、ファースト・コンタクト地点を徹底捜索。すると、おもしろいように次々と見つかるようになるから人間の視認能力はすごいもんだ。

人間は欲深き生き物でもある。となると、より大きなものを求め、小物は眼に入らなくなる。日増しにもっともっとが強まり、手のひらに収まらないサイズを探すようになった。

むむむ、このかたち、水にいったん溶け出した鉱物が紙の上でみずからなりたいように固着した仁胡さんの作品みたいな趣きではないか。そうか、ここに導かれたのかと感慨に浸った。

鉄磁鉱ひろいを愉しむさなか、別の宝物にも遭遇できた。これは流れ着いたステンレス素材の漁具「磯金(イソガネ)」。素潜り漁で海中の岩に付着するアワビなどを剥がすための道具だが、仕事の造園作業にも活用でき、こんなのが欲しいなぁと強く念じていたら不意に手元へ寄ってきたからびっくり仰天。これも鉄磁鉱が引き寄せた幸運なのかな。

朝活の褒美は磯金だけじゃなかった。野比海岸名物の「へそ石」も転がっていた。一帯にあるとは知ってはいたが、まさか円錐形の美しい個体を手にできるとは! 家の近所、長者ヶ崎周辺で過去に見つけた「へそ石」とは比較にならないくらい完璧に均整の取れたプロポーションに惚れ惚れしちゃう。

かつて深海生物の巣穴のまわりで固化した化石と推察される天地を貫くへそ状の穴。うっとりと見入りながら、第一目的が叶ってそろそろ〆ようと考えていた「朝活」をしばらく継続するかなと思い直した。こんな、また新たな魅惑の出会いがあったら仕方ないよね。まだまだ、野比海岸の深掘り、やめられない。沼にずっぽりハマったようだ。

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