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棚は、生きざま

読書用に自宅の土間に設けたベンチコーナー
頭上の簡素な神棚をときどき見上げながら、本づくりの仕事から離れたここ2年、ずっと読めずにいた書籍を開きスムーズに文字を追う。DIYベンチや自作アトリエランプの効き目は明白で、アイデアを我ながら嬉しく思う。

ベンチには雑誌を置いて座るたびにぱらぱらめくり。触感をふくめた紙媒体の愉しみを改めて思い返し喜ぶ今夏。ここ数日、手に取っているのはBRUTUS最新号「棚は、生きざま」。棚に並ぶものは個人の嗜好を如実に物語る。言葉やものを創造する人たちの秘密を覗きこむような特集切り口が興味深かったが、購入に至ったのはニューヨークの現代美術アーティスト、トム・サックスさんのアトリエを徹底公開しているページがあったから。

トムさんの作品は色の選択に洗練したセンスが感じられ魅了されてきたが、記事によれば塗料に何を使うか厳密に「カラーチャート」を定めているそう。その特定の塗料製品を保管する棚の写真を観て、色合いについてのトムさんの好みを想像。幼いころから惹かれてきたミリタリーカラーはクライロン社の廃番製品『Industrial Camouflage #8143 Olive Drab』。この気に入ったカラーが製造中止となった彼は心配性ゆえ買い溜めしているとはいえ、どれだけ動揺したのだろうか。アメリカでは4ドルほどで買えるスプレータイプの塗料は航空運送のルールにより日本で入手しようとすると7倍以上の値段になってしまう。その事情にため息をつきながら、トムさんのアトリエでは定番のクライロン製品のグレーやベンジャミン・ムーア製品の艶消しデコレーターホワイト、コダックカラーを彷彿させるゴールデン社のイエローをネット閲覧し、見入り、ただ指をくわえる。日本でも、もっと気軽にこうした魅惑の塗料を買えるようになるといいのに。

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