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ミキノクチを飾る

先日、日本民藝館で開催中の特別展『柳宗悦唯一の内弟子 鈴木繁男展-手と眼の創作』を観て、繁男さんの嗜好を映したのだろうか、随所に飾られていた神酒口(ミキノクチ)の流動的な造形美に魅了された。祝い事や正月に一対の神酒徳利に挿して豊作の守り神(歳神様)に供えるのがこの神具本来の意味だそう。竹や桧などを薄く裂いて繊細に造作した多様なかたちは全国に現存しているようだか、まずは全体を見渡したくて2007年1月発行の雑誌『民藝』649号を版元の日本民藝協会から取り寄せた。

青森市、富山県氷見市、長野県松本市、東京の多摩川流域などで作られる神酒口はそれぞれかたちが異なり、なかには相当に凝った装飾性の濃いものも。それぞれ魅力的だが、いちばん惹かれたのは神酒口の発祥地とされる奈良県吉野郡下市町の簡素でプリミティブなフォルムだった。入手したくなってネット検索すると下市町の「米田神具店」が雑誌民藝の表紙になったものと同タイプを吉野桧材で作り販売していた。早速、オンラインショップから購入。となれば次は我が家の「神犬棚」に飾るための器の用意である。この棚には三浦市の工藝店「讃々舎」で求めた榊立て(神棚に榊を供えるための瓶)がひとつあったが、神酒口を飾るならペアでなくちゃ、ともうひとつ買い足すことにした。

左右の榊立てとも小鹿田焼、柳瀬裕之(ヒロユキ)窯による現行品である。名陶工の故・柳瀬朝夫さんのもとで修練した裕之さんの焼きものは師に似て野趣に満ちた素朴さがなんとも味わい深く心奪われる。おおらかなかたちながら、膜掛けという手法できっちり綺麗に釉薬を掛け分ける高い技術にも感銘を受ける。この骨格ある健康な日用品に下市の神酒口を差したら、すうっと互いに溶け合う景色が立ち現れ、うっとりと陶酔させられた(笑)。ちなみにこの神酒口上部は「炎」を、下部は「水」をイメージし、燃える炎によって穢れを祓う意味があるとか。

うーむ、確かに神犬棚がいっそう浄化されたような。しかし、ぼくの物欲炎はさらに燃え上がり、他地域の神酒口にも手を出したくなってきた。神酒口が神社の市などにならぶ今年の年末は、多摩川流域あるいは松本を目指そうかな。新たな旅の楽しみが出来てしまった。

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