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パンと山歩とビール

待望の梅雨明け。じっとした湿気が薄まり、やや乾いた暑さに変容し、盛夏のアクティブな心持ちになる。休日もクーラーなしの家にじっとしていられなくて近所の低山へ。いつもの「三浦アルプス 二子山・仙元山コース」。

葉山の海辺から裏道を抜けて森戸川源流のエントランスに向かっててくてく歩く。まずは葉山の一色の三ヶ丘を下り、とても気になっているトヨタの小型EV『コムス』を横目に三ヶ下海岸へ。

真名瀬の渚から漁村の情景が残り、潮風が心地よく吹き流れるこみちへエスケープ。

郷愁誘う家屋と瀟洒なコテージが併存する地域。ノウゼンカズラ咲く、ヨットマンの住処然したこの家は、ぼくが葉山に移住した26年前はとびきりセンスの良い日用品を選び扱う店だった。当時、ここで手に入れたカトラリーは今も毎日愛用している。洗練とは何か、教えてくれた空間。

ふだんはクロスカブで颯爽と駆けてしまうルートをスナップしながらゆっくり進む。茂る濃緑、南方の植生に眼がついつい留まる。この日はやたらオレンジ色にも惹かれる。

町なかの森戸川とこれから登る山。

長柄で制作する流木アーティスト高梨さんのアトリエショップ「HEARTS」の窓に並ぶ流木に魅せられる。この飾りかたを真似したい。

高梨さんが内外装を手がけた自家製天然酵母パン工房「earthなないろファクトリー」に寄って予約していたドーナッツを受け取る。たまたま、山を降りたら目指そうと予定していたクラフトビール醸造所「Brewstars Yacht Club」のオーナーがおられたのでチエさん(右)、サチさん(中央)と一緒に記念写真。

「なないろファクトリー」から山につながる林道入り口はすぐ。素敵なトタン小屋をうっとりと観ながら前進。

林道は光と影の世界。木漏れ日の爽やかに心身鎮まる。あぁ、気持ちいい。

森戸川の水鏡が幻想的。静穏で絶景な美しさに心奪われる。

道幅がどんどん狭くなり、山に分け入る感が強まっていく。急傾斜を登る前に「THE FIVE☆BEANS」のフレンチロースト豆で淹れてきた深煎りコーヒーとドーナッツで休憩。

あたりの森は野鳥の宝庫。絵になる珍しい鳥が飛来してきているのか、望遠レンズ携えたフォトグラファーたちとたくさんすれ違う。

イノシシ除けにと「out of museum」で購入した、シェルパ手作り品みたいな無骨で特大の真鍮ベルをリュックに付けて道中鳴らす。しかし、あまりの大音量でビックリ、too much!
使う状況をよく考えなければいけないね。

春と同じミスをやらかし、YAMAPのマップをオフラインで観れる状態にしておかなかった。この山中は携帯電話の電波が届かないエリアなのだ。前回「仙元山」ルートを選んで延々と田浦方面まで彷徨ってしまったので別の「連絡尾根」ルートを蜘蛛の巣払いつつ進み、目指す葉山一色方向に最短で行けて正解だった。ふぅ、低山だけど侮ることなかれ。

馴染み深い笹竹のトンネルが見えてきて、いつもの尾根に合流、安堵。

県道217号逗子葉山横須賀線(三浦半島中央道路)の新沢トンネルを越えれば、このルートでいちばん好きなマテバシイ並木に到着。大木群の落とす影と光のコントラストが夢みたいに劇的である。

入り組んだ根の景色に息を呑み、急傾斜を慎重に降りれば間もなく「観音塚」に到達。

江戸時代に彫られた石像の醸す神域感がすごい。この場に立つたびに心の安らぎを覚える。町と山の結界とも感じる観音塚にはタブノキの巨木がそびえる。

何か大きな存在にゆったりと抱かれるような心地。この太い枝に上がって身体を横たえ昼寝している人を見かけたこともある。

終始リラックスしていたよう綴っているけれど、実はスズメバチが随所で威嚇してきて、唸る羽音にビクビクもしていた。今夏は植物の繁茂具合も尋常ではないけど、蜂にも用心が必要。ぼくの鎌倉の職場でも同僚が連日刺されている。かなりヤバい今シーズンだ。

無事、町に戻り「Brewstars Yacht Club」で『ライ麦ブレッド・エール』をテイクアウト。

「earthなないろファクトリー」で販売に至らなかったパンを活かしたビール。

家の土間で和みながらチエさん新作の『クランベリーカシューカンパーニュ』を肴にぐびぐび。自家製天然酵母どうしが響き合ってもう至福の美味しさ。ほどよくハードな食感、ナッツの風味とベリーの酸味が最高、絶妙で半分残して晩飯後にオーガニックワインと味わった。パン、ドーナッツ、ビール。この快楽があるから山歩が病みつきになりそう。それが日常的な悦びになりえる葉山に暮らしていて良かった。

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