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オレンジ好き

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正月休み、電池切れのまま洗面所の杉合板壁に留めていた『ボール・クロック』を居間の南方壁、東北ザルの隣に移し留めた。家のなかでもっとも寛ぐ場、寝椅子に寝転びながら視界に入る位置に。この時計はスイスのヴィトラ社が復刻したものだが、オリジナルは1949年にジョージ・ネルソンのオフィスで働くディレクター、アーヴィン・ハーパー氏がデザインし、北米の時計メーカー、ハワードミラー社が製造したものとか。北米が経済発展を邁進する当時にもてはやされた「ミッドセンチュリーモダン」と呼称される洗練と温かみを共存する造形・色彩の工業製品に90年代の僕は虜となり、青山骨董通りや目黒通りにある専門インテリアショップに通ってはイームズの家具やハーマンミラー社の小物類に心酔し、夢中になって散財していた。ミッドセンチュリーモダンな製品はイエロー、オレンジ、ターコイズなどの色を纏うものが多く、中間色の淡い色加減やヴィヴィットな華やかさに魅了された。それらの色彩は希望や夢を孕んだ陽気で前向きなトーンで、ヨーロッパの繊細さとは異質のいかにもアメリカンな嗜好を感じさせ、自分の生活空間にもぜひ取り入れたいと心躍った。90年代は北米のパタゴニア社が本格的に日本進出を果たし、同社がテーマカラーとするオレンジ系の製品にもときめき、汚れが目立ちやすいデメリットなど無視してこのカラーのアウトドアウエアをいくつも買い求めた。暖色のグループでも特に高揚感を覚え、元気になれるのはオレンジ色だった。

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アメリカ人はオレンジ色を日用品に取り入れるのが巧みだと思う。写真は黒の服がスタンダードな寒色主流都市NYマンハッタンの骨董市で業者が陳列板に布を固定していたクリップ。クールな鉄素材にオレンジを差すセンスに見入り、市を出たその足で現地の金物屋に買いに走った。

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オレンジ偏愛ぶりはその後、いっそうと深まりアップルAirPodsの充電中ランプにもうっとりとするほど。もはや変態である。

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机まわりはオレンジだらけ。眼鏡ケースも、電灯も。

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和紙を透過する電球のオレンジが巻貝の螺旋にぼんやりと映るさまに陶然。もう病気である。

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眠りにつく前には川村忠晴さん制作のホウズキのランプを眺め、深く安らぐ。渋谷松濤の「JMギャラリー」で20年ほど前に出逢ったものだが、昨年豆電球とケーブルが経年劣化した際も、元有名女性誌の編集長であるギャラリーオーナーが川村さんとコンタクトし、修繕キットを手配してくれた。お気に入りのものはできるだけ長く愛用したいし、それを可能にする縁を歓びたいし、有難いとせつに思う。

冒頭のマイ『ボール・クロック』はドイツ最大の時計メーカー、ユンハウス社のムーブメントを採用しているそう。その恩恵だろうか、新しい単3電池1本を装填すると眠りからすぐ醒め、カチッカチッと精密な音色で正確に時を刻み始めた。グッドデザインだけどすぐ壊れちゃう。そんなヨーロッパの置き時計に嘆くことも多かったけれど、この時計については佳き選択だったかもしれない。と、散財を美化。

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