見出し画像

小田原のnico cafe

小田原北条氏に仕えていた武士だったかもしれない。祖先の由来を恩師にそう推察され、今も市内のマウンテンサイドにぼくの姓と同じ名の地域が広く残る。雑誌『湘南スタイル』制作に関わっていたときは、その久野地域の大地主を取材したこともあった。そんな縁から小田原の街には親しみを覚えてきた。秦野の学校に通うのに遠回りになる小田原駅経由のルートを選んだのは、機会があれば学校帰りに街を散策してみたいと考えたから。

先日、午前中で剪定実習が終わる日があり、小田原でランチを食べて帰ろうと寄り道した。真っ先に目指す一軒はずっと前から決めていた。駅を出て城下町のゆったりとした雰囲気の通りに心なごみながら歩いて7分ほど。

築100年近い元建具屋の商家を活かした「nico cafe」への初訪問を果たす。大きな2つのナーセリーポットでグリーンを配した軒先の佇まいにまず強く惹かれた。植物で印象的な外観をつくるスタイリッシュな好例。地面にじかに植えられない、植えたくなくても、こんなふうにグリーンを取り込める。黒くて無骨なポットを覆うグレーのカバーがさりげなく洒落ている。

土間のインテリアも美しい。

空間を温かな光で照らすのはジョージ・ネルソンの『バブルランプ』やポール・ヘニングセンの『PH5』などの名作照明。歴史ある場に馴染みつつ華をもたらしている。

名物の『梅酢からあげ』。ランチ定食は迷わずこれに。ピクルスなど副菜、玄米、そして揚げたての柔らかい鶏肉。滋味と心地よい酸味。もう夢のような美味しさ。身体が悦び、心が深く満ち足りた。

たまたま着いた席の脇にはかつての仕事仲間、竹澤うるま君や尊敬するポートレイター鬼海弘雄さんの写真集が並ぶブックシェルフが。品質が高いアートブックを手がける小田原、文化堂印刷とのつながりで自由に読めるよう置いてあるのだという。この偶然にも導きめいた縁を感じてしまった。とても佳い店、また憩いに行こう。
#leicaphoto

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?