ダブデカ考察2:「2階の祈り」とは?

 キリルが祖父から教えてもらったおまじないの言葉「Don't think, feel so good」という言葉は、「2階の祈り」というものの一説であったことが9話最後にクーパーの口から語られる(あくまでSEVEN-Oメンバーと別れた後のクーパーの独り言なので、視聴者にしかわからないが)。その全文が

「Prometheus's fire is there when you don't think feel so. Good gift and blessing shall be given to you then.(汝らが考えることなくただ感じるなら、プロメテウスの火はそこにある。さすれば良き賜物と恵みが汝らに与えられるだろう)」

 …なんだけども、ちょっと妙だな、と。
「プロメテウスの火(Prometheus's fire)」という言葉は核技術などの制御が難しい最先端の科学技術を表す言葉だ。これはギリシャ神話の物語が元になっている。

 かつて神々は「人間には過ぎたる危険なものである」として火を天上で独占していたため、地上の人々は夜が来ると寒さと闇に震えて暮らしていた。巨人の神プロメテウスは恐怖と寒さに震える人間たちを哀れに思い、天上から火を盗んできて人々に与えた。以後人間は火を使いこなして寒さに打ち勝ち、獣を追い、食中毒を遠ざけて長生きし、地上のさまざまのものを熱によって加工して便利な暮らしを得た。しかしその一方で火の扱いを誤り、自ら家や田畑、己の体を燃やし、時には憎いと思った他の人間やその財産に火を放ったり、火によって加工したものを武器にして戦争をするようになった。

 大体これが「プロメテウスの火」の物語だ。プロメテウスが与えた「火」というのは、そのものずばり光源・熱源としての火の起こし方・扱い方の知識とも取れるし、火の扱いを覚えたからこその文化・文明の発展を象徴化した言葉とも取れる。

 で、だ。
「プロメテウスの火」という言葉は「現代の知識ではまだ扱いきれない(事故につながるリスクが高すぎる)」という締めくくりにかかる枕詞でもある。この表現には「だからもっと知識が深まるまで慎重に扱うべきだ」「専門知識のない一般人が触れるような場所にはまだ出さず、識者はさらに研究を深めてから応用すべきだ」すなわち「一般社会で安全に実用化するにはまだ研究が足りていない」という意味が常に込められている。
 となると「研究が必要」なのに「考えずただ感じる」ことを肯定するのはありえない。「プロメテウスの火」とは「正しい扱いを知ってこそ『良き賜物と恵み』をもたらすもの」だ。「考えることなく感じるならば良き賜物と恵みが与えられる」とするならば、それは「プロメテウスの火」をよく知る誰かが正しくそれを管理しており、一般の人々に既に広く還元している場合に限られるはずである。
 そういう場合「プロメテウスの火」について「考える」のは「正しい管理者」のみで良く、その恩恵を受け取る他の者は「プロメテウスの火」について探りを入れることなく「ただ感じる」だけで良い。むしろ「正しい管理者」以外が「プロメテウスの火」にアクセスして、よくわからないままに手を出す方が危ない。「どういうこと?」と思われたら「プロメテウスの火」の部分に「水道」とか「ガス」とか「テレビの地上波」とか代入して考えてみてほしい。その道のプロが確かな知識と技術と職業倫理で管理してくれているからこちらは「何も考えなくても」安全にその恩恵を享受できているわけで、もしこれを倫理もクソもない素人が好き勝手いじるようになったらとんでも八分歩いて五分だし、逆にプロが一人もいなくなって使う人たち一人一人が専門知識ガッツリ身につけた上で使わなきゃならないとなると毎日大変すぎる。
 そう考えると、この「2階の祈り」は「『正しい管理者』から『一般使用者』に向けられた戒めの言葉」である可能性はないだろうか?

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