迷惑な髪の長い女

予約が入ってきたのは午後7時を過ぎた頃だった。
通常、予約サイトの受付締め切りは12時間前までとなっているはずだが!
すでにチェンクインの時間も残り3時間程度。

それなのになぜ?と言う疑問が頭の中に横切った。

何かの設定ミスか?
そう思い、予約サイトの設定を確認してみたが、これまで通り設定に変更はなく、なぜこの時間に予約が入ってきたのか皆目見当がつかない。
それならばと予約サイトに電話をかけてみるが、時間帯も遅かったため英語での対応になってしまい電話を諦める。
そして事情をメールにて説明し送信。
どうせ遅い対応しか期待できないので、まずは今晩チェックインする顧客の対応に集中する。

念のため、メールではチェックインの時間は22時までとなっており、対応はするが消灯時間を過ぎておりお静かに願いますと連絡しておいた。

そしてその女は23時になる頃にやってきた。
館内の説明とハウスルールの説明をし、改めて他のお客さまの迷惑にならないようにと、注意を促したのであるが、やたらと声がでかい。
さらに2名での予約だったがこの女1人しかおらず、そのことを聞くと「相方が急な仕事で帰ったのだ」と言う。

なぜかその時、この女は男と喧嘩でもして1人だけ泊まりにきたのではないか?と直感的に思った。
人を見る目とよく言うが、小さな変化や特徴を迅速に捉え、情報を分析する力がいわゆるこれに当たるのではないだろうか?「オンナの勘はするどい」というのも、きっとこれに当たる。

一年で1000人以上の宿泊客の表情や言葉遣いなどを観察していると、どうしもてそういう能力は鍛えられるのだ。
すぐにそのオンナのプロファイリングがはじまる。

  • オンナはいつも相手の話を全く聞かない。

  • かなり身勝手な性格。

  • 優柔不断。

  • 思考パターンが迷走しやすい。

  • 行動に計画性がほぼない。

  • 身の回りのことを管理できない。

  • おそらくオンナの部屋は汚い、あるいはゴミ屋敷。

こういったことが今回の一人で泊まらざるをえなくなったこととリンクするはずである。

23時を過ぎていたので、いつまでもこんなオンナにつきあっていられるわけもなく、早々に自室に戻って就寝。

翌朝、息子がいきなり愚痴ってくる。
シャワー室の使い方が汚くて、床は水でびしょ濡れ、おそらくドライヤーで乾かしたあとの抜けた髪の毛は床に散乱。浴室も全く後始末していない。
朝から掃除で大変だったらしい。
昨晩使っていたテーブルには飲みかけの紙コップのインスタントコーヒーが2個放置されていた。
やはり要注意人物だった。
そしてプロファイリングはほぼ的中。

オンナは起床後もソファに座って、備え付けのフリーのコーヒーを何度もお変わりして、なにやらPCと向き合っている。
良くは聞こえなかったが、かなりの音量で動画か何かを見ているようだ。

オンナは10時過ぎまでここにいてもいいか?と尋ねてくる。
なんでも友人が迎えに来るらしい。

こんなオンナに気を遣って、館内の掃除を遅らせるつもりもなく、トイレや風呂場の掃除を行っているが、オンナはそんなことお構いなしにスマホでなにかを聞き取っているようだ。
後に息子が言っていたが、どうやらそれはオンナと一緒に泊まるであったであろうオトコからの留守番電話であったらしく、「キミはいつだって無計画で、優柔不断で・・・」などと言っていたらしい。
これもプロファイリング的中。

そろそろ12時になる時間。
早く出ていってくれんかなぁと思っていた矢先、オンナは「トゥクトゥクでお城の下まで送迎してくれないか」と言ってきたが、
「ごめんなさい、我々もそろそろ出かけなくてはならないので・・・」
「では、タクシーを呼んでください。」
(はっ?テメーで呼べば!と内心思ったけれども)
「はい、わかりました。」とタクシー会社に電話。

タクシーは12時5分頃に到着。
息子が言うにはオトコの留守番電話には「12時までに大野城の下の駐車場に来なければ、もう知らない!」という声が入っていたそうだ。
ははは、もう12時過ぎてるじゃねぇか。
タクシーで着いた頃にはもうオトコはどこかへ行ってしまっていればいいのに。


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