弱虫

みんなが虫が嫌いなように私にはその虫が人間なのです
虫が嫌いじゃなくてもおばけとか嵐とか地震とかみんなが思い描く自分が1番畏怖してるものが私にはイコール人間なのです
その虫がわらわらとやってきてその虫が話しかけてきたりその虫に話しかけたりその虫にニコニコしたりその虫が怖い事を隠してバレないように過ごしたりするのが当たり前で皆は人間が怖くないのが当たり前でいかにも虫が好きみたいな顔をしながら私はずっと気持ち悪いな、怖いなと思って飛び跳ねる心臓の音と震える手をなんとか隠してる、つもり。
たまにそれを見抜いてくる虫が居て、私の笑顔のエフェクトがベリベリと音を立てて剥がれてはその私の黒目の奥を間近で覗かれてしまいそうになるのが怖い
目をじっと見られるのは殴られる3秒前のモーションで目を見てたら何見てるんだって怒鳴られてたからその癖がなおらない
いつになったら虫が人に見える?、
虫は美しいのに。虫は強くて美しいのに。

みんなは虫が嫌い。わたしは皆が怖い。話しかけないで、見ないで、近付かないで。こっちに来ないで。私の内側に入ってこないで。私を分かろうとしないで。私の前で止まらないで。はやく居なくなって。
逃げたい。見たくない。聞きたくない。 
虫が居る。防虫剤も殺虫剤も効かなくて、色はさまざまで、私より大きかったり私より小さかったり私より長生きだったり、たまに喋ったりうなずいたり、こっちを見たり無視したりする、でも皆はそれが好きなのが普通で虫に見えないらしい。怖がっちゃダメらしい。その虫の前では普通にしてなきゃダメらしい。
人はみんな人に見えるらしい。
私は弱虫。よわくて仕方ない、ただの人間。

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