民法:最判昭和45年9月22日「94条2項類推適用」

登場人物)X:不動産甲・丙の真正権利者 B:Xに無断で甲・丙の登記を自己名義にして設定 Y:Bから甲・丙を買い受けた 

起案)

1 Xは、Yに対し、所有権に基づき甲・丙の所有権取得登記の抹消を請求する。
 これに対し、Yは、自己が民法94条2項の「第三者」にあたるとして、Xの主張は認められないと反論する。
⑴ 民法94条2条は「虚偽の意思表示」(94条1項)をの無効を前提として、その無効は「善意の第三者」に対抗できないと定める。「虚偽の意思表示」の要件は、①表意者に効果意思(表示の外形に対応する意思)がないこと、②当事者間の通謀である。 
 本件では、Xの本来自己名義であるはずの甲・丙の登記はB名義で設定されているが、これはAが自らの意思で行ったのではなく、BがAに無断で行ったものであるから、上記①②の要件を満たさない。よって、Yの主張は前提を欠くため認められないとも考えうる。
⑵ しかし、民法94条2項の趣旨は、虚偽の外形がある場合、その虚偽の外形の作出について真正権利者に帰責性があるとき、外形を信頼した善意の第三者を保護する点にある。
 そうであれば、不実の所有権移転登記の経由が所有者の知らない間に他人の専断によってされた場合にも、①右不実の登記がされていることを知りながら、②これを継続せしめることを明示又は黙示に承認していたときは、真正権利者に虚偽の外形の作出につき帰責性を認めることができるから、94条2項を類推適用し、真正権利者は「善意の第三者」に対して登記名義人が所有権を取得しないことを対抗することはできないとすべきである。
 そして、この場合の「第三者」とは、当事者及び包括承継人以外の者で、表示の目的につき法律上の利害関係を有する者のことをいう。また、第三者となった時点で登記が不実であることを知らなかった場合、「善意」とされる。
 本件では、Xは、Bが甲・丙についてBが不実の登記を設定したことを知っていながら(①充足)、これを放置し、さらに銀行と貸付契約を締結するにあたって、B名義のままCの抵当権設定登記をしていることから、不実の登記を継続させることを承認していたということができる(②充足)。そして、Yは、Xが甲・丙について所有権を取得した場合、自己の所有権を喪失することになるから「第三者」にあたり、「第三者」となった時点で登記が不実であることを知らなかっから「善意」であるといえる。そのため、Xには、甲・丙についての不実の登記という虚偽の外観の作出につき帰責性が認められるから、94条2項を類推適用し、「善意の第三者」にあたるYは保護される。
2 以上より、Yは94条2項類推適用により保護されるから、Xは、Yに対して所有権を対抗できず、甲・丙についての所有権取得登記の抹消の請求は認められない。

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