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ジェフ・ベックの選んだ音③ ピックアップ

 前回までの3回の投稿でエレクトリックギター用ピックアップの内蔵マグネットについて触れたが、やはりジェフ・ベックの使用ギターのピックアップについても書いておいたほうがいいような気がしてきたので、特に有名な2つをご紹介したいとおもう。



 まずはセイモアダンカン(SEYMOUR DUNCAN)のSH-4、皆さんもよくご存知のJB

このピックアップ(pickup、以下PU)とベックの関わりを知らない人でも「ダンカンのジェイビー」の名を聞いたことはあるだろう。
 なんせ純正搭載しているギターが多いのである。Sダンカンの現在の正規輸入代理がESPということもあり、同社の展開するブランドのエドワーズ(EDWARDS)やLTD、ナヴィゲイター(NAVIGATOR)の製品の多くに採用されている。
 他社製品では、私が憶えているかぎりではヤマハやフェルナンデスの2000年代初期のギターに採用されていた。

 ダンカン製品屈指のロング&ベストセラーとなったJBだが、ひと言でいえば出力が強化されたPAFである。

 1973年頃、ロンドンのフェンダーのリペアサービスに勤務していたセイモア・ダンカンの手による、両PUをハムバッカーに換装した50年代のテレキャスターを弾いたベックはすぐに気に入り、レコーディングに使用したエピソードが知られている。これが世に知られる「テレギブ」(Tele-Gib)である。

 ロニー・マックが所有していたフライングVから採取したという壊れたハムバッカーのコイルを巻きなおして完成させたセイモア特製のPUは、PAFよりもコイルのターン数を増やすことで出力を上げ、同時に中音域に厚みを持たせたものだった、らしい。

 らしい、というのは現行のSH-4ことJBと、ベックに渡したギターに搭載のセイモア特製のPUでは若干の違いがあったようなのだ。
 2003年、世界限定777個をうたう、その名も”Prototype JB”がSダンカンから発売されたが、現行SH-4のマグネットがアルニコⅤであるのに対し、Ptorotype JBはアルニコⅡなのである。

他にもワイアの線径やコイルを巻き上げる際のテンションなど、当時の個体とは様々な違いがあったものと推測される。

 JBとPAFを分ける差として大きな比重を占めるコイルの巻き数だが、アッシュボディにメイプルネックのテレキャスターに搭載することを前提にセイモアが設計したのであればそのセッティングは非常に理にかなっているといえる。
 ネック、ボディともにマホガニーを多用するギブソンとは異なり、硬質で軽量な木材を用いたフェンダーギターに搭載するには、中音域にある程度の厚みを持つハムバッカーでないと出音のバランスがとれないものである。セイモアはそれまでの修理や改造の経験からそのことを理解していたのだろう。

 その適度なパワー感と中音域の厚みが、後にさらなるハイゲイン化の道を進んだアンプやエフェクトペダルとの組合せでも十分に魅力を発揮できたことでJBはハムバッカー系PUの代表格の座を獲得したのである。

 なお、このテレギブのブリッジ側が後のJBなのだが、ネック側も同様に後に商品化されたという。Jazz ModelことSH-2である。

(画像クリックでHP)

Jazzもまたロングセラーとなったが、特にジャクソン(JACKSON)製品のネック側に多く搭載されたのをご記憶の方もいらっしゃるだろう。
 

 



 もうひとつのPUはフェンダー(FENDER)のホット・ノイズレス(Hot Noiseless、以下HN)。


 ジェフ・ベック・ストラトキャスターに純正搭載されたこのPUは積層型ノイズキャンセリング構造、ギター業界ではスタックコイルとよばれる系統のモデルだ。
 
 フェンダーが自社製品の大半に採用のシングルコイルPUの、サイズはそのままでノイズキャンセリング構造を採り入れた新型PUを投入しはじめたのは90年代末のことだった。

エリック・クラプトンのシグニチュアモデルに搭載され、フェンダーの新時代のトーンを切り拓くPUとして高い評価を得たこのモデルはヴィンテージ・ノイズレス(以下VN)と名付けられた。

 VNの発売からしばらくしてフェンダーからHNが発売された。もちろんベックのシグニチュアに純正搭載のPUであることもアナウンスされた。
 なのでVNよりも高出力であり、激しめの歪みが狙えるPUであろうことは容易に推測できたのだが、実際に鳴らしてみると高音域の反応がヴィヴィッドで、細かなタッチもシャープに出てくれることに気づいた。
 気になってカタログデータをみると、VNとは内蔵のマグネットが異なっていた。
 VNのマグネットはアルニコで、HNはセラミックなのである。

 先述のセイモアダンカンJBにしてもHNにしても、ジェフ・ベックは正統性や伝統に束縛されないギタリストだとつくづく思う。

 決してクラプトンを貶めるわけではないが、フェンダー伝統のクラシカルなシングルコイルPUのサウンドに軸足を置くクラプトンに対し、反応が良く高音域がキリッと立ち、ハイゲインで高出力なアンプで鳴らしても音像が潰れずノイズの少ないサウンドが得られるのであれば内蔵マグネットや構造には拘泥しないというベックの姿勢が、選ぶPUにもはっきりと出ているとはいえないだろうか。

 ベックがPUの内蔵マグネットどころかPUそのものにも拘泥しないことは2016年のステージで手にしていたギターからもうかがえる。ベースは自身のシグニチュアだが、PUはアルニコマグネット内蔵のN3が搭載されている。
 自身が思うように鳴らせるのであればどのようなスペックであれ躊躇もなく手にしてステージに上がり、自分の音を出すのである。誰もが出来そうで実際には全く手が届かない神仙の領域にベックは達していたと言っていいのではないだろうか。

 おそらくだがフェンダー社のエンジニア達にとって、シグニチュアモデル用のPU開発をとおしての、クラプトン、ベック両名とのリレイションは非常にやりがいのあるプロジェクトだったに違いない。

 そのうえで、フェンダーのサウンドを継承しつつ、ストラトキャスターの新しい可能性へ斬りこんでいくためのエンジンとしてHNを開発し製品化できたことに大きな価値があったことが、おそらく後々になって判ってくるのではないかと私は考えている。英語圏でいうところのbenchmarkとはこのような製品を指すのではないだろうか。


 最後に、歴史的名作ピックアップの誕生に寄与してくれたジェフ・ベックに改めて敬意を。

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