川崎戦~追いついた自信

2021年4月18日 川崎フロンターレ vs サンフレッチェ広島 等々力陸上競技場

「せめて前半は堪えて欲しかったな」
「ロングボールでサントス目掛けて蹴ればいいのに」
 ハーフタイム、仲間からそんな声が聴こえやはり考えてることは皆同じだと気づく。明らかにワンサイドゲームになってるだけにチームに激励をしたい。だけど大声は出せない。再びピッチに現れた選手には拍手で迎え入れる。そして声に出さないものの「サーンフレッチェ!」という声援を気持ちの中では乗せていた。
 すると後半右サイドの柏から森島への連携を見せクロスが上がる。そして中央サントスのヘッド。GKに弾かれてしまったものの初めてシュートが打てた。そしてCKになるもクリアされたがそれでも救われた気がした。
 そして再び川崎の攻撃。人数を掛けてゴール前を固める。ボールホルダーへ対してアタックがないもののポストへ入れられたとこで高い強度のタックルで青山やハイネルが潰してカウンター。前線にサントスがいる為にボールの収まりがある。遠目から浅野がシュート。枠に入らなかったもののシュートが打てたことに希望を見出すのだった。
 ところが喜んだのも束の間、そのすぐ後に右サイドを割かれペナルティエリアまで突き抜けられると速い弾道のクロス。それをファーに飛び込んだ三苫に決められてしまったのだった。
 これは痛かった。まだ1点差ならどうにかなった。もはやこれは大量失点の臭いがした。そんな悲嘆に暮れるもどうもピッチの様子がおかしい。主審はゲームをスタートさせることなく無線のやり取りをしている。
 静まり返るスタジアム。VARの判定が入るのか。でもそれにしては遅い。その時オーロラビジョンにリプレイが映し出される。ゴールの前、ニアサイドに入ったダミアンは完全にオフサイドポジション。それをボールに干渉してると判定するかどうか。モニターの確認に入った主審。再びピッチに出ると判定を表す。オフサイド、ノーゴールの判定だった。
「うおおおおおおおっ!」
 思わず声が漏れてしまう。そしてそれをかき消すように手を叩き喜びを爆発させる。助かった。まだ負けてることには変わりないものの、この判定はアウェイゴール裏を活気づかせるのだった。
 ショートパス一辺倒だったビルドアップはロングボールを織り交ぜるようになった。ターゲットはサントス。左サイドライン際で受けたサントスはDFのマークを振り切りゴールへ突き進む。待ち構える最終ラインはサントスの行く手を遮るとカットイン、打たずにカットインでDFを動かすと切り返しでシュート。完全にGKの逆を突いたもののポストに当たる。が、このセカンドボールに森島が反応。角度はないがシュート。身体を投げ出したDFとGK。だが次の瞬間ボールはゴールの中に入っていたのだった。
 モリシマ、モリシマ、モリシマーッ!立ち上がり、叫びたくなる衝動を抑えて手を叩き続ける。決めたのは森島だが80パーセントはサントスの個人技によって決まった。こういう場面が観たかった。やっとサントスの有効な使い方が実践できた気がした。
 だがまだ試合は終わってない。ここで失点してしまっては元も子もない。当然川崎は再び突き放す為に次々にサンフレッチェ陣内に侵食してくる。だがそのことごとくを跳ね返す。今津はハイボールに強い。そして対面しての守備も強い。あそこで止めてくれるという安定感がある。するとまたしても前線へボールを運ぶチャンスが生まれ東がフリーでペナルティエリアに入った。そこで迷わずシュート。GKに弾かれるも珍しく枠に入っていた。シュートの入らない東だったが勢いというのはこういうところにも出るのだった。
 CKから押し込む時間が続く。この流れの中で決めたい。交代で入った鮎川がターンから抜け出す。いけ、シュートまでいけと叫びたくなる。だが一瞬の躊躇が攻撃へ蓋をされ逆にカウンターを受けてしまう。懸命に戻る中盤。だがその前にDFが時間を掛けさせることにより守備の陣形をつくる余裕を与えるのだった。
 アディショナルタイム7分。守るには長いが攻めるには短い。前線までつながれば可能性はありそうだった。だが川崎は攻撃を跳ね返すと必ず味方が収めて攻撃に転ずるのである。
 守り切りたい。変幻自在に繰り広げられるパスワークにはドリブルも入れてくる。クリアしてもセカンドボールは拾われる。まだ終わらないのか。いや、それでもやっぱり追加点は欲しい。サントスや交代で入ったエゼキエウのスピードなら1人でも打開できる。
 そんなどっちともつかない心情のまま試合は終わってしまったのだった。勝ち点1。先制されて追いついたことでまるで勝ったかのような盛り上がりでアウェイゴール裏は沸くのだった。
 下位チームには負けたのに上位チームと引き分けた。よく分からない立ち位置となってしまったが、それでもこういう試合をしていれば自ずと結果は付いて来る。そんな希望を見出した試合に目の前の視界が開けたような爽快さを感じるのだった。

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