FC東京戦~熱帯夜の勝利

2019/08/17 FC東京 vs サンフレッチェ広島 味の素スタジアム

 一体何度あるんだ。
 アウェイゴール裏で座ってると滞留した熱によってじっとりとした汗がしたたり落ちる。日は落ちていくものの気温が下がることはなく、時間と共にスタンドの密度は増していくことで尚更熱が籠もる。そこに疲弊しながらも選手が入場するとコールが始まり気持ちの温度も上がる。内も外も熱くなるのだった。
 とはいえこのモワッとした暑さ、選手の消耗は相当なものであろう。90分を睨んで、動きの少ない立ち上がりだった。
 後ろからビルドアップでゲームをつくろうとするサンフレッチェに対して東京は前からのプレッシャーは掛けてこない。その分ボールは持てるものの東京のブロックを崩すスイッチを入れるボールをなかなか入れられない。それは明らかに悪い奪われ方をするのを恐れてるようだった。縦に速い攻撃、それは東京の最も得意とするものだった。
 サイドを使って持ち上げる。右のハイネルの突破が効いている。逆に左の柏のとこでは停滞する。回して回して突破を仕掛けようとするとコースを塞がれるのでやり直し。隙を伺ってるつもりでいるものの、そのもどかしいパス回しはフィニッシュに至らず終わってしまうのだった。
 もどかしい。どことなくまったりとしてる。とはいえその試合運びは理解もできた。なにせ暑い。座って観てるだけで汗が噴き出る。ピッチの選手にしてみればあまり前半から飛ばしてると最後動けなくなるのは目に見えていた。
 そんなコンディションのせいかピッチでうずくまる選手も現れた。全くボールと関係ないとこで東京の選手が倒れた時、審判は一旦試合を止める。サンフレッチェが攻めてただけにその判定には不満の声が上がる。だが選手の安全を考えれば致し方ないとドロップボールの判定を受け入れた。そしてそのボールは当然サンフレッチェに返してくれるのだと思っていた。が、東京は構わずマイボールとしてそのまま攻めてきたのだった。
 アウェイゴール裏から猛烈な抗議の声が上がった。あれではピンチになれば倒れればいいではないか。そんな不満からサンフレッチェの応援はヒートアップする。理不尽な判定はサンフレッチェに火をつけたのだった。
 前半スコアレス。でも相手にチャンスらしいチャンスは与えなかった。サンフレッチェの方がボールを支配してるように見える。かといってシュートシーンをつくれないのであと一押しだろう。その一押しの為に期待が掛かるのが青山だった。
 後半15分。その青山が東との交代でピッチに入ると声援は一層大きくなる。正確で意表を突くキックは相手の牙城を崩す。あれほど入り込めなかった東京のブロックに綻びが生じる。そして柏がボールを持った時、スルーパスへ反応した川辺。ゴール前で受けると落とすと柏が猛然と突っ込んできた。DFの間を抜きシュート。走った勢いも相まってその弾道はGKの掌をはじき飛ばしゴールに入り込んだのだった。
 ドワアアアアアアアアァッ!
 一斉に立ち上がったアウェイゴール裏。怒濤のような歓声が沸き、ゴールを決め勢い余った柏が駆け寄った時には柏コールが響き渡った。大きい、あまりにも大きい先制点だった。
 ここで受け身に回ってはいけない。追加点も狙っていきたい。攻めるにはリスクを伴う。そこがミスにつながり東京にボールが渡ってしまう。そして一旦東京の攻撃が始まるとなかなかそれを断ち切ることができないのだった。
 サイドを起点にクロスを入れられる。ハイネルは守備でもがんばって走り回る。それでもゴール前の密集地帯に入れられるとGK大迫はパンチングで弾く。セカンドボールを拾われる。なかなか攻撃を断ち切れない。そんな前掛かりに来られた攻撃を食い止めロングボール一本蹴ると広大なスペースが広がってる。ハイネルがドリブルで駆け上がる。ただし東京の帰陣も速くゴールまでは至らない。その内にそんなカウンターの場面が訪れてもハイネルが上がってこれなくなった。限界だった。ピッチにうずくまったハイネルはサロモンソンに交代した。
 それからも引きこもって防戦一方。そして奪ってカウンター。柏がドリブルで抜け出した時にはゴールの目の前まで来たのに全速力で戻ったDFに食い止められてしまった。あと少しだった。だけど相手も必死だ。アディショナルタイムの表示が5分と出た時、あまりにも長く感じてサンフレッチェ・サポーターからどよめきが起こった。
 シュートには身体を張ってブロックする。もはやつなぐよりも前方に大きく蹴り出すのが精一杯。一体今何分経った?プレーが進む毎に時間が気になる。そこで東京のファールによってプレーが止まる。大きく安堵する。リスタートはGK大迫がゆっくりと始める。そして蹴ったとこでタイムアップの笛が鳴ったのだった。
 ドオオオオッ!という歓声が上がる。誰も彼も喜び讃え合う。勝った。勝った、勝った、勝った。首位のFC東京に勝った。この暑い一戦を制した。思えばホームでFC東京に負けてから連敗が始まった。そしてその借りを返した。そんな想いが折り重なってサンフレッチェ・コールが響き渡るのだった。
 額から汗がしたたり落ちる。それをタオルマフラーで拭き取る。気づいたらそれはすでにぐっしょりと濡れていた。ぐしょぐしょのレプリカユニフォームに、まるで自分もプレーをしてたかのような錯角を覚える。いや、ぼくも闘っていた。そしてゴール裏皆が闘っていた。そんな疲労感と達成感が湧き上がる勝利にいつまでも高揚は収まらないのだった。

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