徳島戦〜勝てた最終戦への葛藤

2021年12月4日 徳島ヴォルティス vs サンフレッチェ広島 鳴門・大塚スポーツパーク ポカリスエットスタジアム
 
 沢田監督では勝てない。
 最終節を迎え、1分4敗。しかもその内容たるや散々なもので成績不振で解任された城福監督に同情すら覚えてしまうものだった。下位チームに軒並み敗れたということもあってそれが逆に残留争いを混沌とさせてしまった。そしてその渦中にいる徳島。残留の為には勝つことが絶対条件。その雰囲気に飲まれてしまってもおかしくはなかった。
 ところがスタジアムにそんな飢餓感が漂ってなかった。いや、選手もスタッフもサポーターも皆固唾を飲んで見守っていただろう。だが観客の人数制限と声出し応援の禁止という要素が思いの外大きかった。チャイナウィルスの影響はスタジアムの熱気まで奪ってしまったのだった。
 その為サンフレッチェも正常な精神で試合に入ることができた。前からのプレス。取っ組み合うような形になりながらもボールを支配するのはサンフレッチェだった。パスで抜けボールタッチでいなしスピードで藤井が縦へ抜ける。そんな好循環が続いていく。ただ、完全に崩すとこまでいけないのは今までの課題でありこのまま守備を固めた相手に手こずることによって次第にペースを変えられる今までの悪癖が出てきそうな懸念があった。
 スローインから青山に入る。攻撃へのスイッチを入れたい。左サイドから切り崩しにかかるかと思ったその瞬間逆サイドにクロス。速い弾道のボールは逆サイドゴール前のスペース。藤井が駆け上げっていてボレー。GKをかすめてゴールに突き刺さった。
 先制、先制、先制。藤井初ゴール。あれだけゴールに見放されてたように見えた藤井がこれ以上ないタイミングで入り正確なキックを叩き込んだ。青山のクロスに反応したのも見事なら決め切ったのも見事。今までの鬱憤を晴らすようなゴールにチームは活気付くのだった。
 そして本人もこのゴールによって波に乗った。左サイドをフェイントから縦へ抜けクロス。すると今度はゴール前中央に構えたエゼキエウが飛ぶとヘディングがふわりと当たりゴール片隅に入る。2点目。藤井1ゴール1アシスト。あれだけ点の取れないという苦悩は藤井の覚醒であっという間に解消されたのだった。
 立て続けのゴールはチームに余裕をもたらせた。その後ボールを持たれても自陣に引いてブロックで構える。中へ差し込まれてもそこから先へは行かせない安定感を見せる。スタンドからは徳島を後押しする手拍子が鳴り響き徐々にDFの網を掻い潜る。コースが空きシュート。これをGK大迫はセーブしたものの流れは悪くなった。だがここで給水タイム。時間によって救われたのだった。
 そしてプレーが再開すると沢田監督の指示があったのだろうか、今度はどんどん前からプレスを仕掛けていくようになった。東が高い位置まで上がりクロス。これがCKへと繋がり柴崎が蹴るとニアに入った東が逸らしゴール真正面にエゼキエウ。3点目。前半のうちに点差を広げたことでスタジアムは静まり返るのだった。
 そのまま攻撃への糸目を与えないままハーフタイム。そこで後半から徳島は3枚代え。ボランチを下げてFWを投入という捨て身の攻撃の姿勢を打ち出した。前に重心が掛かる分更なる追加点で引き離しに掛かることができる。そんな狡猾さを見せたかったものの潮目は徳島に訪れる。サイドで野上が抜かれるとそのまま駆け上がってクロス。GK大迫が飛び出しによりキャッチに入るも勢いを持って飛び込んだ垣田と激突。うずくまる大迫。当然垣田にはカードが出たものの続行が危ぶまれた。林にポジションを奪われて久々の出場だけにここは試合を全うしたい。そんな想いが続行へと向かわせた。
 プレー再開。早々にボールを奪われ前線からのプレス。それを剥がされ、剥がされ、剥がされると中盤でも剥がされ、剥がされ、剥がされるとスルーパスを狙われる。ゴールへと戻るDFの脚に当たり跳ね返るとリフレクションを駆け上がった勢いそのままミドルシュート。弾丸のようなシュートがゴールに突き刺さったのだった。
 息を吹き返した徳島。2点差となればまだ可能性が残されてるような気がする。そこでサンフレッチェもエゼキエウに代え浅野を入れる。徳島のスローイン。それを柴崎が掻っ攫うとドリブルでバイタルエリアへ。裏を狙ったパスは引っ掛かるも浅野が拾った。詰め寄るDF。カットインしてシュート。DFに当たりながらもゴールに吸い込まれるのだった。
 再び3点差。勢いづいた相手の出鼻を挫くことができた。ここで徳島は更に前線のメンバー交代に活路を見出そうとするもののサンフレッチェはクロスを送り込むと逆サイドにいた東がヘッド。完全なタイミングだったものの枠を外してしまう。東のヘディングシュートは本当に入らない。それさえ入っていれば救われた試合がどれだけあっただろうと思いを馳せるのだった。
 すると徳島のボール支配が強まり再びブロックをつくって守りに徹するようになる。サイドを抜かれてクロスを入れられると荒木がヘッドで弾くもののゴール前の混戦からは抜け出せてない。ポンポンと空中を飛ぶボールに最後は一美が押し込んだ。力技によってねじ込まれてしまった。これで2点差。いつもこういうゴリ押しのようなプレーに負けてしまう。だがこれにはGK大迫のポジショニングミスが大きかった。荒木がクリアするもそこに飛び込んでいたが為ゴールをガラ空きにしてしまった。前に出るのが大迫の良さではあるが、往々にしてその判断を誤ってしまう。その安定間のなさは結局この試合でも出してしまったのだった。
 この徳島に振り向いた流れを押し戻すべく土肥、サントスを投入するも振り子の針は戻らない。攻めて攻めて攻めまくる徳島。そこは時間が進むに従ってもう無駄な足掻きかも知れなかったもののそれでも最後の瞬間まで諦めることをしようとしない徳島の気概だった。
 最後の最後の最後の瞬間までスタジアムを包む空気はサンフレッチェのブロックを突き破ろうとしていた。が、無常にもタイムアップの笛が吹かれるとスタジアムに静粛が訪れた。これにより徳島のJ2降格が決まる。1年で落ちたとはいえ少なくともサンフレッチェは前回対戦で負けてしまった。そして他の残留に向けてのライバルチームにほぼ負けてしまったサンフレッチェはどことなく魔の悪さを感じた。チームとして失速してたサンフレッチェとの対戦組合せ時期が少しでも違っていれば違った結果になったのかもしれない。そんな噛み合わせの悪さもあったのかもしれなかった。
 シーズンを終え、何か残したもののあった1年だったのだろうか。最後の最後は2−4というスコアで勝つことができたもののこういう試合をするのがあまりにも遅すぎた。あらゆる意味で残念さが残る締めくくりだったような気がするのだった。

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