札幌戦~良きサイクルの充足感

2019年8月3日 サンフレッチェ広島vsコンサドーレ札幌 エディオンスタジアム広島

 身体の内側に溜まった熱が外気に晒されることによって一層燃えさかる。ジトーッとした汗が滲み出て不快度が上がる。夜へと橋渡しする時間になってもこの気温。熱い、熱い、熱い。暑いではなく完全なる熱を感じるのだった。
 この高温多湿の中、同じフォーメーションの札幌との対戦。どちらの精度が上か、どちらの走力が上か、どちらが体力があるか。そんな戦いであるのは明白だったものの、試合の入りは両者共スタミナを意識したゆっくりとしたものだった。
 サンフレッチェは後ろからのビルドアップにより隙を探し前線へ入れる。すると密集地奪われロングボールを出されるとサイドの広大なスペースを縦へ抜かれクロス。それをゴール前のジェイがヘディング。GK大迫の真正面だったことが得点には結びつかなかったものの、この後何度となくこういう場面を迎えるのだった。ボール支配を高めても攻撃へのチャレンジのパスは止められる。対して札幌はカウンターによって左右からのクロスという形は中に長身のジェイがいることによって十分に脅威になっている。井林も荒木も競り合うことすらできない。シュートの精度のなさに助けられたものの、効率面から考えると札幌の方に分があるのは明白だった。
 高い位置からのプレスは思った程嵌らない。プレスを掛けてくる相手に対して外すというスキルはミシャの下、札幌でも植え付けられてる。どんなチームに行っても自分の色に染めるミシャはやっぱり指導者として秀でている。それでもあと一歩のとこで頭打ちになる。勢いに任せて一本調子になる。失点をせずにハーフタイムを迎えると後半はチャンスがあるのではないかという気がした。
 すると左サイド柏に入ると相手を引き付ける。ここからドリブルで縦へ行くのかバックパスで立て直すのか迷いを生じさせる。すると次のプレーはそのどちらでもなく縦のスペースへ放り込んだ。スプリントを掛ける森島。だがDFも引き連れてるだけに少々無謀な挑戦に見えた。が、追いついた森島。ただゴールまでのコースには入られて壁となっている。カットインから切れ込もうとするもドリブルには無理があると思われたその時、折り返しのパスを送った。するとこのマイナスで転がるボールに猛然と走りこんできたのがボランチの稲垣。ファーサイドへのシュート。GKも身体を倒して反応するも、及ばずゴールに入ったのだった。
「おおっしゃああああぁぁぁっ!」
 ボールを持ってるようでいてシュートまでたどり着けないもどかしさの中、先制をした。しかもそれが稲垣という後ろのポジションの選手である。決してシュートの上手い選手ではないがなぜかこういうところに顔を出しミラクルなシュートを決める。誰よりも走ることによってこういうスポットライトの当たるプレーを起こす。改めてサッカーとは色んな能力を持った者による総合力なのだと思い知らされた。そしてサンフレッチェのこのスタイルを築いたのこそ札幌のベンチにいるミシャなのだった。
 当然のことながら失点した札幌は前に出てくる。自然、サンフレッチェのディフェンスラインも下がる。札幌の攻撃が続く。ただ、前半あれだけやられた左の白井には突破を許さなくなった。後ろに人数を置いたことによって守備のカバーが来れる。ただその分チャナティップが色んなところでドリブルで仕掛けてくるので捕まえきれない。それによりペナルティエリアに入られてシュートを打った時には決められたかと思った。が、ここは井林がしっかりコースを切っていたのである。
 更に札幌の猛攻は続くも最後の最後では荒木が絡め捕る。そして前線へ送るもヴィエイラ一人なのでままならない。それでも収めた時にはビッグチャンスが生まれる。ドリブルで駆け上がる。それに反応し森島も駆け上がりスルーパスを受ける。追走するDF。他に選択肢はなくシュート。ギリギリの条件で放ったシュートは枠に飛んだ。GKに防がれはしたもののCKである。時間が稼げた。そして何よりも引いて守ってるだけでなく常にカウンターの機会を狙ってるという驚異を与えることができた。
 その森島も終盤に近付くとプレーの精度が落ちてきた。さすがに中2日のスケジュールはキツイ。ユニフォームは汗でびっしょりと濡れている。あと1点入れば試合を決めることができるものの渡と交代した。
 アディショナルタイム5分。長い。それでも跳ね返すだけでなくとどめを刺す意識は持ち続けている。それがハイネルのパスカットを生みカウンターへとつながる。スピードのなるハイネルのドリブル。スペースへのパスをヴィエイラが受けるとペナルティエリアへ。ただ札幌の戻りも速くシュートコースが阻まれるもマイナスのパス。これに途中交代の青山。決定的だったがシュートは枠の上に飛んでしまったのだった。
 今シーズン初出場の青山。ここで決めればその盛り上がりは計り知れなかっただろう。そして9試合ぶりに先発をした野津田も目に見える結果を残したかっただろう。だがそれらは叶うことなく終了の笛を聴いた。勝った、勝てた。それでいながら選手個々の事情を考えると色んなものが交錯してそうだった。逆に言うとそれだけ今チームは競争がしっかりと確立されてるということかもしれない。
 最後まで足の止まらなかったサンフレッチェ。疲労感より出場への渇望があるのだろう。本当は渡だってもっと観たい、青山や野津田だって先発で観たい、佐々木の負傷で出場してる井林だっていいパフォーマンスを出していた。サロモンソンだって負傷離脱から戻ってきた。一つの勝利と共にそんないいサイクルを感じさせてくれるのだった。

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