神戸戦~肯定的な引き分け

2021年9月5日サンフレッチェ広島 vs ヴィッセル神戸 エディオンスタジアム広島

 ピースマッチとして開催された試合は夕方の涼しさにより平和の冠を催すのに最適な体感気温となった。そのせいか選手の動きもいい。トップのヴィエイラから前線で追う動きはチャンスをつくり出す。あと一歩でシュートまで至らない場面を演出し、まさかこのメンバーでここまでやるとはと嬉しい驚きを与えたのだった。
 佐々木が代表に招集され、野上、森島が体調不良による欠場。DFが2枚とゲームメイカーの不在は前節の勝利による勢いを大きく削いでしまった。前には柴崎、右CBには今津が入りそこは計算できたものの、左CBには元々攻撃の選手だった東が入った。さすがにこれは博打が過ぎる。左サイドから崩される未来が見えた。そして東が戦犯として誹謗の限りを受けるはめになるのか。いや、そもそもそんな采配をしてしまった城福監督に非難の矛先が向くのだろうか。
 ところが神戸の攻撃に入った時、左から崩されるということがなかった。むしろ右の方が縦へ仕掛けられてる印象だ。てっきり神戸は東を狙うと思ってたにも関わらずそこは上手くシャットアウトしてる。競り合いでも弾き返している。もしかして、東にはDFの適性があるのか。だとしたらこの采配、決して無謀な挑戦ではなかった。
 そしてパスでつなぎながらのビルドアップで前線にボールが入る。右の柏からクロスが入ると逆サイドに流れて藤井が受ける。前線に雪崩れ込みショートパスを受ける。その中に東がいた。DFでありながらもゴール前にも顔を出している。そしてそれが間違いなく攻撃のアクセントになっているのだった。
 メンバーを入れ替えてもできる。一種の驚きであった。あの沈滞ムード漂うつまらないつまらないサッカーは影を潜めお互いがお互いの特徴をよくつかみワンタッチのパスが回っていく。左に行けば藤井がスピードを使い右に行けば柏がドリブルで翻弄する。そして中央でヴィエイラが構えることでボールが収まりシュート。が、シュートにパンチ力がないだけあってGKに処理されてしまった。そこにもどかしさを感じつつもこういう場面をつくり出せただけでも感嘆の声を上げるのだった。
 ところが神戸も奪うとイニエスタが縦を剣で切り刻むようなパスを入れる。荒木が身を挺してクリアするもCK。こういうセットプレーの場面を何度も与えてしまうのだった。
 攻めてはいるもののフィニッシュまでいけない。お互いそういう組み合うような試合の中、ハイネルがプレーとは関係ないとこでイエローカードを受けてしまう。最後が割れないことへのイラつきなのだろうか。だがチャンスはつくってるだけにそこまでエキサイトする必要もないような気がした。
 すると後半、点を取るべく前掛かりになってるとこを奪われた。またしても縦への速いパス。それをカットすべくハイネルのスライディングは阿附t-タックルとなり倒した。駆け寄る審判。そして提示したのはイエローカード。それにより2枚目となり退場してしまうのだった。
 何たること。ハイネル自身技巧的なプレーで前線へボールを供給していたのに。技術はあるけど冷静になれることができずチームを劣勢に追いやってしまった。ああ、もうハイネルは観たくなくなった。
 1人少ない中、守りに徹するしかない。このまま防戦一方で後半戦を進めなくてはいけない。そんなこと可能だろうか。どこかで耐えきれなくなって失点する。それだけに時計を進める為にも攻撃の時間も必要なのだった。
 すると2人、3人とボールホルダーへ囲い奪うと柴崎の縦パスがトップのヴィエイラに入った。ターンをして前を向く。が、倒された。FK。チャンスという以上に時間を稼ぐことができた。息を抜くこともできる。ところがボールに寄った東の眼は光っていた。
 笛により東の左足が炸裂する。ゴールに向かっていくスワーブの掛かったボール。跳びついたGK飯倉。そして掌に当て弾かれたかと思うもゴールネットを揺らしていた。入ってる。ゴールの中に入ってる。東、直接FKを決めてしまった。
 雄たけびを上げようにも間が空いたことで間の抜けた声になってしまう。入ってると思わなかった。それ以上に入ると思わなかった。絶対的な自信があったのだろう。それができたのは1人少ないという切迫感である。これを逃したらもうチャンスはないという背水の陣が思い切りを与えたのだろう。
 1人少ない中での先制。当然この後は受けに回る時間が続くようになる。いかにそこを耐えるか。もし20分耐えたなら神戸も焦ってくるだろう。それまで何とか食い止めたい。
 ところが右サイドに入ったボールへのチェックが空いてしまう。すかさずゴール前へ放り込むようなクロス。GK大迫が飛び出すも止まってしまう。そこへボールの落下点へ走りこまれヘディング。威力はなかったものの無人のゴールにあえなく沈められてしまうのだった。
 同点。呆気ない失点だった。なぜにあんなに簡単に追いつかれてしまうんだろう。まるでリードしてるのが精神的苦痛を伴ってるかのようだ。事実、その後は一方的に攻められるもののブロックを固めてしっかりと閉じている。もしかしてわざとやってるのではと考えてしまうほど安易なポジショニングのミスであった。
 守って守って守り抜く中でパスカットからエゼキエウにボールが出る。余裕のない中で出されたボールはイーブンに見えたものの瞬間的な速さでエゼキエウが収め縦へ抜ける。圧倒的なスピードはサンペールに倒されて潰えてしまうがFKにより時間を稼いでくれるだけでありがたかった。
 そしてヴィエイラに代えて浅野が入ると縦へのドリブルを魅せる。速い、速い、速い。こういうプレーをする浅野を久々に観た。よくやくコンディションが上がってきたようだ。
 アディショナルタイム5分。もはや引き分けで御の字である。ロングボールで攻めてきた神戸。弾き返す。身体を入れる。守って守って守った挙句響き渡った少量の笛に救われたのだった。最低限な条件である勝ち点1を取ることができたのだった。
 GK大迫のポジショニングミスが悔やまれる。そしてハイネルの退場も。ただ、それがなければFKはハイネルが蹴ってしまったに違いない。東自身の覚悟も違ったものになったかもしれない。残念ではあったが肯定感の方が強い引き分けであった。ただ、あのまま勝つことができれば、それはやはりずっと引っ掛かりとして身体に残っているのだった。

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