柏戦~ドウグラス・ヴィエイラのハットトリック

2021年9月18日 柏レイソル vs サンフレッチェ広島 三協フロンテア柏スタジアム

 雨上がりの夜、台風の影響により蒸し暑さが残った。日没も早くなって照明も早い時間から点灯されたものの涼しさを感じないのが奇妙だった。だがそれ以上に試合が始まると終始サンフレッチェのパスが繋いで行けてることに意外さを感じていた。
 ワンタッチ、ツータッチでプレッシャーを掻い潜る。皆の共通理解の下、連動した動き、パスの方向、強弱が全て小気味よく回っている。各駅停車だったあのまどろっこしさはどこへ行ったんだ。つい数試合前までとはまるで違うチームになってしまった。
 ところが敵陣まではボールを運ぶことができるものの、そこから先へは行かない。トップのヴィエイラへのマークが厳しくボールを出すことができない。そして右サイドの藤井のスピードを生かそうと裏へのキックを試みるもことごとく蓋をされてしまう。やはりそこも警戒されている。やはりこの日もいいところまでは行くで終わってしまうのではないだろうか。
 そんな懸念を感じ始めてた矢先にサイドで張る藤井に入る。縦へ行こうにも行けず戻してうやり直し。柴崎が受け青山に預けるとグラウンダーのキックを放つ。地を這うボールはDFラインを越えペナルティエリアへ。飛び出たヴィエイラ。GKとの1体1。ああ、打ちててしまうなと思った瞬間浮かした。ボールはGKを避けてそのままゴールに吸い込まれて行った。
 入った。ゴール。先制、先制、先制。あの決定力の無いヴィエイラが決めた。いつの間にあんなシュート打てるようになったんだろう。相手の逆を突く、正にブラジル人らしいゴールに唖然としつつ拳を握りしめるのだった。
 ところが完全に喜んでばかりいられないのがサンフレッチェである。先制をすれば追いつかれる。まるでそれは辻褄合わせのように決められてしまう。その悪癖を身に染みて意識してるのか、リスタートからの柏ボールを激しく追って行くのだった。
 それでも取れない。中央を固める。左サイドは東がマークに付いたが縦への囮に釣られてしまった。低い弾道のクロスが入る。ニアで合わせられる。ファーに流れた。が、それはゴールポストを逸れゴールラインを割っていったのだった。
 助かった。またいつものパターンですぐに追いつかれるのかと思った。そしてそのまま前半を終えたことに大きく安堵するのだった。
 問題はここからである。ハーフタイムの修正を加えられると途端にペースを握り返される。リードしてるのにまるで余裕がない。1点というのはあまりにも儚い。いくら先に点を取っても勝たないと何の意味もないのだ。
 柏レイソルよりも遅れてピッチに現れたサンフレッチェ。再び主導権を取るべく藤井に出すとやはり縦を蓋される。すると中へカットイン。ドリブル、ドリブル、ドリブル、スルーパス。DFに引っ掛かるもこぼれを拾ってシュート。ガツンという音と共にポストに当たり跳ね返ってしまった。
 ああ、あれが入っていれば。再び柏レイソルに回され出すとよりその念が強くなってしまう。奪いたい、奪いたい、奪いたい。ここで手を抜いたらまたやられてしまうという。そして何とマイボールとして収めるとハイネルが前線へのロングフィード。GK前に出る。だがヴィエイラが収めると反転、キック。その軌道は弧を描きそのままゴールへと吸い込まれて行くのだった。
 2点目。まさか、まさか、まさかのヴィエイラ2ゴール。あの得点力のないとおよそストライカーらしさものの希薄だったヴィエイラが決めた。そして何よりもヴィエイラがあんな美しく曲がるボールを蹴れるとは思わなかった。
 そしてヴィエイラが乗ってきた。前線からのプレスはより強度を強めボールの収まりは更に加速する。するとそれに呼応するように攻撃への躍動感が生まれ前線へ入った。一旦落とすと左に流れる。東がダイレクトクロス。中央に合わずにブロック。だがボールがこぼれそれをヴィエイラ押し込んだ。ゴール。3点目。試合を決定づけるゴールなのだった。
 ヴィエイラの所にボールが吸い寄せられる。そんなオーラが漂ってた。正直ヴィエイラにそんな威光を感じたことは初めてだった。
 劣勢の打開を試みる柏レイソルはロングボール1本でクリステアーノを走らせる。だがここを佐々木が身体を入れ対応。守備にも抜かりがない。DF陣のリスク管理が手堅いが何より久々の出場となったGK林のコーチングの声がよく響く。柏のシュートに対しても的確なポジショニングでピンチに至ってない。毎試合必ず失点してるがその中の多くの割合で大迫のポジショニングミスがあるだけに安定感は大きく違った。
 後半の引水タイムに入る。ここで一気に3枚替えでサントス、浅野といったアタッカー陣が入る。選手交代でチーム力を落としたこの数試合と異なりそれぞれがまたアピールをすべく守備に、攻撃にと強度を上げる。そして中央突破からラストパスが出る。浅野抜け出した。シュート。が、これがGKに止められてしまった。完全なビッグチャンスを決め切ることができなかった。
 刻一刻と進んでいく時間に城福監督の叫び声が途切れない。このまま無失点で終わりたい。ロングボールをサントスが収めCKにして時計を進めた。そして再び柏の攻撃の時間になるも最後をやらせない。それでもほんのわずかな隙を狙って速いパスを入れられシュートを撃たれる。GK林キャッチ。やはり安定感がある。そしてそこで終了を告げたのだった。
 0−3。久々の無失点での勝利。ただそれは前半のヘディングシュートが決まっていれば分からなかった。そして何度かあったロングボールによるカウンターは紙一重のところで荒木が食い止めていた。点差は圧勝であるものの薄氷を踏む中での勝利だったかもしれない。
 そしてヴィエイラのハットトリック。FWが取ってくれればこんなにスムーズに勝つことができることを思い知らされた。このままヴィエイラが覚醒してくれれば。それによりサントスや浅野がより奮起して決めることができるようになれば。そんな淡い期待を持ってしまうのだった。

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