マリノス戦~渡の惨敗、試合の惨敗

2019/09/14 横浜Fマリノス vs サンフレッチェ広島 ニッパツ三ツ沢球技場

 横浜駅の喧噪を抜け川沿いを歩くと坂道に差し掛かる。かつて山だったのを切り開いて道路にしたらしく、曲がりくねった登り道には車がビッシリと並んでいる。横浜はどこに行っても混んでいる。そんな固定観念を目の当たりにさせられる光景だった。
 バス代をケチって徒歩で三ツ沢公園内に入るとそこだけ人がごった返していた。それまでの道すがら、どことなく閑散とした殺風景な雰囲気があっただけにまるで砂漠の真ん中に街が現れたような感覚になるのだった。
 とはいえ気温は砂漠ではありえないような涼しさに恵まれた。つい1週間前まで熱中症で運び込まれる人のニュースが絶えなかったことが信じられないのだった。
 メインスタンドに上がり席に着く。初めてのSSS席。ピッチ中央から雲に覆われつつも彼方まで広がる空が見渡せる。両チームのゴール裏もよく見えるのでサポーターの様子も伺いやすい。が、それでいて椅子が狭い。一体いつの時代の人間を基準にしてるんだというくらいに狭い。さすがにこんなお粗末な椅子でこの値段はないだろ。それだけこのスタジアムが古いということであろうがさすがに今後この値段でチケットを買う気にはならないのだった。
 日が落ちると共に照明に灯がともる。2週間ぶりのリーグ戦。その間レアンドロ・ペレイラは怪我をしてしまった。トップに渡が入ったもののルヴァンカップの2試合はどちらも勝てなかった。決定力のなさが露呈した。だからこそ渡自身にとっても結果が求められる。せっかく巡ってきた出場機会、ここでチームを勝たすことができるかどうかで今後のサッカー人生も変わってくるだろう。
 空も暗くなり選手が入場する。照明により影が何方向へも伸びる。座ってる席からは選手の表情までよくわかる。そしてその動きの一つ一つに迫力がある。そのせいか、立ち上がりから両者アグレッシヴに見えるのだった。
 ボールの寄せが速い。そんなに飛ばしてたら後でバテるのではと心配するも気温が下がったといいうのも影響してるのだろう。動ける分、両者激しい。接触プレーも多い。ファールにより熱くなる場面もある。だが個々の選手が局面で負けないという気迫が伺える。それにより両者シュートシーンをつくりつつも最後の最後で食い止めるのだった。
 いつものごとく防戦一方の展開に持ち込まれる。ボールを奪ってもワントップの渡に収まらない。前半から劣勢に立たされこの苦境にボールを奪っても出し所がない。後ろで回してもすでに敵が人数を割いて上がってるので厳しい。また奪われ返されると思ったその時、ロングボールが飛んでハイネルが抜け出す。ハイネルは速い。無謀に思えたそのボールに追いついてシュートまでいったのだった。
 追い込まれてるようでその裏を突く。なかなかにサンフレッチェは抜け目ない。そんな雰囲気を出した時、ハイネルからクロスが入った。渡がジャンピングボレー。これ以上ないタイミングだったものの、足先に当たったシュートはゴールバーの遙か上を超えてしまったのだった。
 渡らしいアクロバティックなプレー。でも枠に入れることができなければノーチャンスだ。わずか0.5秒でも速く反応していれば。当てるのが精一杯だったが為にコントロールまではできなかったようだ。
 前半をスコアレスドロー。悪くはないがもはやこの時点で切り札がなくなってしまっていた。青山とハイネルを先発させている。そしてこの2人、時間の経過と共にプレーが雑になる傾向がある。守備でファールが多くなり、パスが相手にカットされる。それにより逆襲を食らう。更にハイネルは無謀とも言えるスライディングで相手のパスカットをしようとすると届かず相手にいい形でドリブルで入られる。そしてサイドから切り込まれ角度のないシュート。これが決まってしまった。よりによって決めたのは仲川。前回対戦と同じ選手に同じパターンでやられた。もはや仲川はサンフレッチェにはこうやってシュートに持ち込めば点が取れるという自信を持ってしまっただろう。
 追う立場になったサンフレッチェ。ところがトップの渡にはまるでボールが収まらない。ゴールキックを蹴っても競り合うことすらできず相手ボールになってしまう。そして前線でもターゲットになることができずにハイネルも柏もクロスが上げられない。そしてたまに上がったと思ったら100パーセントの確率でその落下地点にいない。渡じゃ点が取れない。残念だがそう考えざるを得なかった。
 そんな攻撃のもたつきをしている内にクリアミスを拾われてシュート。またしてもゴールに叩き込まれてしまった。その後も野上がペナルティエリアでハンド、PKを献上して決められる。あれよあれよという間に3点も失ってしまう。マリノスの選手はみんなゴールを目指すので守備をし難い。一方でサンフレッチェの攻撃陣はゴール前に来るとパスをしてしまう。打てばいいとこで裏へパスを出し、ことごとくカットされてしまう。完全に読まれてる。読まれてるのに同じパターンを繰り返す。繰り返すからマリノスは守備が簡単だ。サンフレッチェの攻撃には恐さというものがまるでないのだった。
 トップに絶対的なFWがいないというのをやはり厳しい。森島も途中から入ったものの何もできない。攻め手がない。一方のマリノスはパスでもつなぎロングパスはつながりドリブルはどんどん仕掛けてきて10点くらい取ろうとしてるくらいの勢いだった。それに押されてどんどんどんどんショボくなっている。もはやサンフレッチェは盾も矛もうしなってしまったかのような脆さだった。
 3-0、ぼろ負けである。こんな試合を観にわざわざ横浜まで来たのかと思うと屈辱的だった。やっぱりトップがいないからな。渡は見事に何もできなかった。それなのに90分使われたのはそれだけ駒が足りないということだ。苦しい。今後、これでは勝つことはできないだろう。そういえば渡のワントップで今まで勝ったことがないんだった。
 もはやこれから点を取ることすらできないだろうと暗澹たる想いでアウェイゴール裏へ挨拶に行く選手を眺める。負けはしても激励するサポーター。そして最後に出たのが渡コールなのだった。みんなまだ渡のこと諦めてないようだった。
 それを聴いてぼくは席を立つ。惨敗にうちひしがれるもまだ少し期待してみたくなった。そしてぼくの着てる渡のレプリカが誇らしく輝くことを夢見るのだった。

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