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ヤッカンダンダでの日々

レタス農場で働き始めて2週間が経った。場所はメルボルンから北3時間ほどにあるヤッカンダンダという田舎町だ。

ここでの仕事は培養されているレタスの収穫、葉を切って袋詰め、苗植えなど全ての工程を数時間区切りで手伝っている。
従業員は私の他にオーストラリア人の主婦、オーストラリア人男性とイギリス人女性のカップル。そして、たまにオーナーとその息子達が顔を出しに来る。
ワーホリビザで来ているのは私だけである。完全な家族経営農場だ。
私の英語力が低いせいで、言っていることがよく分からなかったり何度も聞き返してしまうことがある。でも、一番辛いのは孤独感に苛まれることだ。
今暮らしているのは農場の事務所兼別館のような所だ。30m先にオーナー夫妻が住む大きな邸宅があり、後方のビニールハウス近くの敷地にはオーストラリア人とイギリス人カップルがいるテントがある。これだけ住む場所が近くても、彼らと全然話す機会がない。仕事中は話をすれど、プライベートで仲良くなる雰囲気がない。彼らは親切な人たちで人を嫌な気持ちにさせたり、害を与えたりする事はないが仲良くなって共に食事をするという雰囲気は見られなかった。オーストラリア人主婦は家族の事で忙しそうだし、カップルはあまり出かけずにテント生活を謳歌している。オーナー夫妻は雇い主という感じで、私たちにあまり干渉してこない。
つまり、生活のほとんどが私1人での暮らしなのだ。スーパーなどがある大きな街までは車で30分ほどかかる。周りは山に囲まれており、ぽつりぽつりと大きな民家が見えるくらいだ。

なので、休日は誰とも話すこともなく家から出るわけでもなく完全に1人になってしまう。
仕事も朝6:30から始まって13時には終わる。その後自由時間が多くあるため英語勉強に力を入れられるのは良い点ではある。
しかし、このままでいいのかという思いが湧いてくる。
タスマニアにいた頃もどうにもつまらんという気持ちが湧いて移動したにもかかわらず、だ。

ここでの生活は仕事の問題は改善されたが、友達も知り合いもいないのでプライベートでは完全一人世界になってしまう。
私のワーホリの当初の目的はなんだったのか?それすらも分からなくなってきてしまっている。本当は農作業なんて興味がないのではないか。セカンドビザを取るためだけに嫌々やっているのか。そもそも2年もオーストラリアに居たいのか、このままモヤモヤした気持ちを抱えたままジプシーするのか。
日本に帰ろうか、いやこんな気持ちで帰れるか。
ここに来てからは常に自分は何がしたくて、何を求めているのか一人になった分とても考えるようになった。

思いついた事は以下の通りだった。
・日々の食事に飽きが出てきた。アジの干物でも何でもいいから普通の日本食が食べたい。
オーストラリアでは外食が高いのでほとんどが自炊だ。頑張って自炊を試みているが、なかなか食材が手に入らず日本食が思ったような味にならない。
私の自炊スキルの低さも問題かもしれないが、大根ですらなかなか見つけられず仕方なくこちらで売られているカブで代用してお雑煮を作ってみたもののあまりの汁の苦さに嫌気が差したりしている。
この国の食材はこの国に合った調理法で食べるべきだと身をもって知った。そして、中華料理や韓国料理、その他アジア料理がとても恋しい。

・家の作りが脆く、ロクな暖房器具がないため室内が寒すぎる。
これはシドニーにいた時も感じていたが、室内が寒すぎる。
今昼間は日光が照りつけ結構暑いのに朝晩はぐっと冷え込む。その際にやたらと室内が寒く感じるのだ。シドニーの時も寒過ぎて、我慢出来ず自分で暖房器具を購入し使わざるを得なかった。オーストラリアの電気代はべらぼうに高く、大体のシェアハウスのオーナーは電気代が高くつくことを嫌がるので暖房器具を使わせてくれない事が多い。その結果、元々脆い建物構造に加えて暖房器具0で過ごすという事態になる。寒がりな私にはこの状況は非常に辛い。

・自然や動物にあまり興味、関心が無い。
こちらに来て間もなくの時は海も山も綺麗に感じたが、今はどこを見ても同じように感じてしまうことがある。動物も可愛いと思い写真は撮れど、あまり関心がない。どちらかというと歴史的建造物や神秘的な寺、仏閣など精巧な人工物に心惹かれる事が多いことが分かった。
オーストラリアは歴史的建造物がそう多くない。どちらかというと山、川、海、動物というワードに近い国だ。あまりオーストラリア自体に関心が無くなってきてしまっているのも事実。

・やっぱり東南アジアが好き。
オーストラリアはのんびりしている。のほほんポカポカと気張らずに暮らして行ける。しかし、私はどこまでいってもあのアジアの喧騒、雑多感、わけのわからないカオスに好奇心がくすぐられる。どうしても、どうしても今の状態では物足りなくなってしまう。
オーストラリアに来てから、肌の調子は良くなったし若返ったと言われることも増えた。一々下を確認せずとも歩ける広々とした広い道も澄んだ空気も。水道水もそのまま飲めるし、口に入れる物に神経質にならなくてよい。原因不明の腹痛も起こらないし、全てがキレイな国だ。
しかし本当にドM野郎かも知れないが、あの東南アジアの輝きとパワーに触れてしまったら、あれほど強烈な体験は2度と忘れられないのだ。

車で1400kmほど移動して、運良く仕事を見つけ労働条件は悪くないもののまたも悩む結果となってしまった。
ただ、思うのは当たり前の事に幸福を感じる大切さだ。移動を続けて、目まぐるしいオーストラリア生活だったが、病気や怪我も今のところせず、大きなトラブルもなく生活が送れている現在に有り難みを感じている。

あと今のVISAの有効期限まで2ヶ月ほどとなった。
ここまでくるといかに後悔しないように日々の生活を満喫するかを重点的に考えることになる。
セカンドビザの取得には固執しなくなった。そうなってから、あぁ私はセカンドビザ取り合戦ゲームをしてしまっていたんだなと気付く。手段を目的化してしまっていた。「2年くらいオーストラリアに入れたらいいな」がいつの間にか、「何が何でもセカンドビザを取りたい、なるべくいい条件で」にすり変わっていたのだ。
だから、オーストラリアをあまり楽しめなくなっていた。
手段の目的化を辞めて、損得考えずに残りの期間はやってみたいことを素直にやって行けばいいと思えたのだった。
だから、最後に興味のある場所にフラッと寄って帰ろうかもしくは無理矢理オーストラリア滞在を伸ばさなくても気持ちが満足すればその時点で帰国するかになるかなとボンヤリと思い始めている。


2019.5より27歳でオーストラリアワーホリ開始。 ベトナム現地採用勤務2年してました。 ぶらぶらしたりサイクリングしたり音楽聴いたり映画館行って肉を食べまくる日常。フットワーク軽め。