BMAB Grandmaster になりました

概要

これはいわゆる色変記事です。
競技プログラミング(以下競プロ)の各種サイトではレーティングごとに色分けがされており、レーティングが上がって初めてある色に到達した際に「色変記事」と題してそのレートに辿りつくまでに行った練習法などを書くのが最近の競プロ界隈では恒例となっています。
自分もかつては競プロをやりこんでいたのですが、競プロで色変記事を書いたことは無く、そこで先日バックギャモンでBMABのGrandmasterという競プロにおけるRedCoderのような領域へと到達したので、せっかくなので記事を書いてみようと思いました。

そもそもバックギャモンって?Grandmasterって?

バックギャモンはボードゲームの一種で、基本ルールとしてはサイコロを振って出た目の数だけ駒を進めるというすごろくそのものですが、相手の駒が進むのを防いだり、相手の駒を振り出しに戻したりすることが出来ます。サイコロを使うので運要素も大いにありますが、動かし方は複数あり、その選択で勝率が変わってくるので、試合を重ねると熟練者と初心者では結果に明らかな差がつきます。

また、バックギャモンでは20年ほど前からAIが人間を超えたとされており、人間の実力を「AIの示す最善手からどれだけ期待値を落としたか」という観点で評価するようにもなりました。最近では将棋でも「一致率」という話が出てきましたが、バックギャモンは上記のように勝敗に運が大きく関わるので、AIの評価によって実力と運を「切り分ける」という意図もあります。

現在世界最強と言われているバックギャモンソフトeXtremeGammon2(XG)による解析画面
画面左下に最善手と、次善手以降の順番及び最善手と比べた期待値損失が出ている

バックギャモンの試合において、1手ごとのAI最善手と比べた際の期待値損失の平均にある定数を掛けた値をPerformanceRating(PR)と呼び、PRが小さいほど実力が高いということになります(2人のプレイヤーが対戦してPRに差があった際は、そのPRの差や試合の長さが大きいほどPRが小さいプレイヤーの勝率が高くなります)。ただ、このPRが運に依らず実力を完全に反映しているかというとそういう訳ではなく、試合ごとに単純な展開になることもあれば難しい展開になることになり、1試合のPRでは同じ人でも波があるのが普通です。そのため、一定数以上の試合におけるPRの平均がその人の(おおまかな)実力を表しているというのがギャモン界隈での共通認識となっています。

また、BMAB(Backgammon Master Awarding Body)という機構があり、事前に指定された試合の棋譜を送付すると、一定試合数の平均PRに応じてTitle(将棋で言う所の級位や段位に相当するもの)が与えられます。その中でも、PR4.0を切るとGrandMasterというTitleを与えられるのですが、ここが(それこそ競プロにおけるRedCoderに相当するような)1つの大きな区切り・目標になっていると思われます。

Grandmasterになるまでの道のり

バックギャモンをよく知らない人のためにもゲームの概要やPRって何ぞやって話をしてきましたが、ここから自分がGrandmasterになるまでやってきたことを説明します。バックギャモンを知ってる人向けの具体的な話もありますが、読み物的な話もあるのでよく知らなくても興味があったら読んでくれたらありがたいです。

バックギャモンを始めるまで

バックギャモンというゲームのおおまかなルールは割と昔から知っていた気がしますが、初めて強く興味を引かれたのはニコニコ動画で将棋棋士の森内俊之先生がバックギャモンをプレイしている動画を見たことです。

それでバックギャモンを自分もちゃんと勉強してやってみたいと思い戦略をググってみたところ、まず「初手のムーブ一覧表」というのを見つけました。バックギャモンの初手には出目が15通り存在し、それぞれにおいて一番いい動かし方は決まっているのですが、それを覚えるのも苦労し、出鼻を挫かれた感があってそのままモチベーションも無くなりました。

バックギャモンをやろうと再び思ったきっかけは、たまたまニコニコ動画でバックギャモンの入門動画シリーズを見つけたことです。

このシリーズではゲームのルールだけではなく、初手の動かし方などの基本的な戦略も動画と音声で理由なども踏まえて説明されていて、覚えるのに苦労してたのが嘘みたいにスッと頭の中に入ってきて、バックギャモンを始めてみようという機運が再び高まりました。2017年の春ごろで、今からちょうど6年前くらいになります。

さらに、その直後くらいに上記の動画シリーズを作られたラバーさんが生放送を見て「GWにバックギャモンフェスティバルという大型イベントがある」という情報を知り、いいタイミングなので参加してみようと思いました。

2017年~2019年

初参加のバックギャモンフェスティバルでは始めたばかりということもあって初級戦に参加してみました。そこで参加賞として「バックギャモンブック」という入門書を貰ったのですが、その中で紹介されていたテンポヒットというテクニックを見て「へぇ~バックギャモンにはこんな駆け引きが存在するのか」とより興味が湧いたのを覚えています。
フェスティバルの後もバックギャモンをやりたくて日本バックギャモン協会のホームページからイベントを探したところ、「四谷ひろば例会」というイベントを見つけたので参加しました。最初はもちろん知らない人ばっかりだったのですが、参加していくうちに知り合いも増えていき、また例会後の打ち上げでギャモンやその他の話をいろいろとするのもすごく楽しかったです。また、例会主催者の中村慶行さんが定期的に(その例会とは別に)講習会も行っていたので、そちらにもよく参加していました。
また、前述のラバーさんがインターネットバックギャモンクラブ(INBC)を主催していることを知り、そちらで行われるオンラインの大会にも頻繁に参加するようになりました。バックギャモンフェスティバルではINBCメンバーでオフ会をやったりして、バックギャモンはゲーム自体もめっちゃ面白くてそれを通じて多くの人とも知り合えて本当に始めて良かったなと思ったりしていました。
そして、バックギャモンは面白いゲームだからこそ上達していきたいなとも思うようになり、ハッピーギャモンシリーズを購入して読んだり、XGを導入して実戦の棋譜を解析させて見直しすることもやっていました。2019年の年末にはPR7くらいまで来ていたと思います。

2020年

そんなこんなでバックギャモンの実力を少しずつ上げていった私ですが、2020年には地球規模の大きな事件が起こります。そう、新型コロナウィルスです。
コロナにより毎年GWに行われていたバックギャモンフェスティバルも中止。自分は開催されていたら初めてオープンクラスに参加しようと思っていたのでとても残念ではありましたが、幸いなことにバックギャモンの練習自体は家の中でも問題なく行えたのでモチベーションが下がることはありませんでした。
むしろ、リモートワークになって時間が増えたこと、そしてBackgammonGalaxyという対戦サイトが出てきたことで、今まで以上にバックギャモンに時間を使いました。この年は特にGalaxy実戦をかなりの数こなしました(平日は仕事が終わったらGalaxyで11pマッチをやってそのあと見直しというのをこの年の後半は毎日のようにやっていた)。
それまでも講習会に行ったり例会後の打ち上げで色々話を聞いたりしてバックギャモンの知識は結構あったと思うのですが、実戦経験はそれに比べると不足していたのだと思います。それがこの年に実戦をめちゃくちゃこなしたことで、実戦経験が知識に追いついて実力を大きく伸ばせたのかなと思っています。この年の頭ではPR7を切れるかどうか位だったのが、年末にはPR5を切って4点台に突入していました。
またこの年には森内俊之先生が自身のYoutubeチャンネルである森内チャンネルを開設し、その中でバックギャモンを扱ったため、それをきっかけにバックギャモンを始めた人をかなり見かけました。

2021年

この年も頭から引き続きGalaxyでの実戦を中心に行い、春ぐらいにはPR4.5を切れて、このままPR4切りまでまっしぐら…かと思っていたところで大きな壁にぶつかり、そこから中々PRを下げられなくなってきます。前述の中村慶行さんにある時話したところ、「実戦だけじゃなくてそれ以外の勉強も増やした方がいい」とのアドバイスをもらいました。自分もそれは薄々感じていて、この頃は前とは逆に知識面が実戦経験に追いついていない状態になっていたと思います。
ただ、それは分かっていてもやはり練習の中では実戦をこなすというのが一番自分の中でモチベーションが高く、上達のためと言って特にやりたくないことをやって飽きるくらいなら…と言い訳して結局実戦以外の練習は特にしなかった1年でした。年末のXGでのPRは4.25くらい。

2022年

この年も最初は相変わらずGalaxyでの対戦しかやってなかったのですが、ある時から自分のGalaxyのレートの上下が気になってきて、その結果プレイ中の相手のムーブにも「よし、これ絶対ブランダーやろ!」とか「うわぁ、相手難しそうな局面殆どないじゃん。これPR負けてそう…」とか一喜一憂して余計なこと考えるようになってきました。そういう感じでプレイしても精神状態悪くなるだけだなーと思って来たので、ここでようやく実戦以外の練習に時間を回そうと思いました。
そこで、数年前に買ったものの手を付けてなかった「What's Your GAME PLAN?」という本を読んでみました。ムーブの問題とその解説が122題載っているのですが、読んでいく中で「ヒットするかどうか・バックマンを逃がすかどうか」といった基本的で出現頻度の高い重要な判断において、実戦を重ねる中で何となくこうかなと思っていた感覚がかなり整理されていったような気がします。
その本の問題を定期的に解き直しつつ実戦をまたやっていくようになると、PRとしては0.いくつの違いではあるものの、「この局面はこういう手を選ぶべきところ」といった直感の精度が大分高くなってきたようには感じました。結果として、XGのプロファイルでも年内にPR4をギリギリ切れましたし、またこの年の盤聖リーグの結果によって今年に入ってからGrandmaster認定されました。

おすすめの書籍

バックギャモンを上達していく上で個人的に特におすすめだと思った書籍を載せます。

バックギャモンブック

ルールから基本的な戦略まで一通りまとまっています。これを読めばルールが知らない状態からでも、バックギャモンというゲームの果てなき面白さの一端を知ることが出来ます。

ハッピーギャモンシリーズ

海外のトーナメントでも数多く結果を残している景山充人プロの書かれた戦術書です。正直自分も最初は1冊5000円なんて高すぎるのでは…とも思ったのですが、実際に買ってみるとむちゃくちゃためになって、十分値段以上の価値があると感じました。初心者が読んでも理解できてすぐ実戦で使える内容でありながら、上級者になってから読み返しても十分役に立つという感じで、一度買えばかなり長い間お世話になると思います。いきなり3万円で全冊購入するのはちょっと…という方はまずは1冊目からでも。

What's your GAME PLAN?

記事の中に書いた通り、自分がGrandmasterに届く最後の一押しになったのがこの本だと思っています。この本で出題される問題はどれも決して奇抜ではない、実戦中にもよく出てきそうな局面でありながら、正解を選ぶにはゲームプランのしっかりとした理解が求められる歯ごたえのある問題ばかりです。ある程度上級者向けですが、この本に出てくる問題を考えて解説も読んだら、局面に対する解像度がかなり上がると思います。

他にもCUBE ACTION 1000など購入した本もあるのですが、個人的にはこの3つ以外はそんなにかな…と。もちろん人によっては大いに役立つこともあるでしょうし、自分にとっては上記3つが大きく役立ったというだけの話でもありますが。まだ持ってない本の中では、景山充人プロのBack Checker Strategyが良さそうなので次に本を読むならこれにしようかなと思っています。

まとめ・告知

という訳でバックギャモンを始めてからGrandmaster認定されるまでのことをざっと書いてきました。本当はPR(の低さ)だけがその人の実力じゃないとか色々あるんですが、ちょっと記事も長くなってきたのでここでは割愛させてください。(PRだけの観点で言うと)一つ大きな目標には到達できたのですが、まだまだバックギャモンで理解できてない部分も多いのでもっと上達していきたいですし、大会でも結果を残したい。

そして、今年もGWの5月3日から5日にはバックギャモンフェスティバルが東京・大崎で開催されます!

初級戦や体験コーナーもあるので、バックギャモンがまだよく分からない方がいらしても十分楽しめると思います。私も6年前にバックギャモンのルールくらいしか知らない状態でこのイベントに参加してからめっちゃのめりこんだので、興味がある方はぜひお越しください!初級戦は1日ずつ独立で行われているので3日間のうち1日だけの参加でも大丈夫ですし、特にイベントに参加せずにちょっと覗きに来るだけでも楽しめると思います。

そしてバックギャモンに興味は沸いたけどルールや戦術をどうやって知ればいいのか…という方にはこちらの動画シリーズがおすすめです。記事の中に出てきた動画シリーズでもいいですが、ラバーさんがその後新しく作り直したものなので、まずはこちらから見るのがいいかなと思います。

その他にも、何かバックギャモンで聞きたいことがあれば筆者のTwitterまで気軽にご質問ください。この記事を読んでバックギャモンに興味を持った方、またバックギャモンを知っていたけどもっとガッツリやってみようと思った方がいらっしゃれば嬉しいです。

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