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7/30 どうしようもなく愛しいはまの日々

7月の最終土曜日。毎年恒例の花火大会は、あたたかな明かりと美味しいものに集まった人と、北条の夏の風物詩を一緒に味わえた。母が作った冷たいお好み焼きをかきこみながら屋上で花火を眺めていた去年、翌夏この場所がこんなことになるなんて誰が想像しただろうか。花火前日の朝は、菱沼さんに突撃で連絡してテーブルと椅子を借り、炎天下の中、足腰の悪い村上さんを屋上へ登らせて、照明の調子を見てもらった。そう、はまのみんなで見上げる花火は、関わったものをすべからく巻き込むスタイル。
花火前日の夕方、西日が少し眩しくなってきた頃、いよさんと打ち合わせをしていると、へべれけに酔ったじいちゃんが店に入ろうとしたのですぐに断った。私は知っている。この人を片足でも店に入れてしまったら、いつもろくなことがない。
近所に住むじいちゃんが私に話しかけてくる時は大抵、朝からカラオケとスナックをはしごしてひどく酔っ払っている。そして店に入ってくる時はもう記憶がない。次に向かうスナックの営業開始の前に、時間を潰しにやってくるのだ。おそらくご自慢のネタなのだろう、いつも同じ下ネタを3分に1回挟んで周囲をうんざりさせるじいちゃんは、おんとし83歳(勝手に提示してきたマイナンバーカードに記載)。適当にあしらうと、「ワシはかっくんの友達や!」ときまって亡くなった叔父の名前を出すのだ。こんな文脈で勝手に名前を使われる叔父の身にもなってみてほしい。うちに集まる年寄りたちは、彼らの青春時代の武勇伝から愛する孫のエピソード、きゅうりのレシピから相撲の勝ち負けまで色んな話で笑わせてくれるが、このじいちゃんと話すと、なんだか自分の命が蚊取り線香の煙のように目に見えて消えていくのがわかるような疲れ方をする。
「はまの人の酒癖の悪さは気をつけたほうがいい」と口すっぱく言われてきたし、この辺の人の酒の飲み方も知っていたつもりだったが、甘く見ていた。こんな有象無象のはまの年寄りたちを包み込むスナックのママの懐の深さが知りたい。そんなことを思いながら帰宅していると、駅前商店街のスナック遊の明かりがついていることにホッとする深夜2時。大雨洪水警報の夜でも看板の明かりは消えないスナック遊のママへ。行き場のない老人を出禁にする私を無慈悲だと思わないで、話を聞いてほしい。

花火の翌日は、晴れ間の中で雨が降った。昨晩ビールをこぼしまくった地面を優しい雨が洗い流していた。アスファルトに染みるほど長い天気雨はきっと花火の煙をまとっていただろう。
近所のおいちゃんが突然窓を開けてきて、「お前、カメいるか?」と聞いてきた。サッカー少年のように、小脇にカメを携えて店に入ってやってくる。「いらない」と即答したはずなのにな。ああ、今日もどうしようもなく愛しい1日が終わっていく。蝉がすぐそばで鳴く7月の終わり。

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