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9/18 日曜閉店前毎度渋滞絵巻

市の広報誌の一面に、「ハルノウタのホットサンドが食べられる喫茶店」として掲載された日の朝。いや、時系列でいうと、その日の朝、店に着いた途端知らないばあちゃんがやってきて、手に持っていた誌面の切り抜きに自分の顔が載っていて知った。店の郵便受けに投函される分を確認するよりもずっと早かった。「パン屋さんなのね?」うちはパン屋じゃないんです。ごめんなさい。店の名前は、「ハルノウタ」じゃなくて、それはパンを提供してくれているパン屋さんの名前で。なんなら営業は午後からで、パンはまだ届いてないんです。きっと自分の期待はずれというか、想像の斜め上をいく私の返答にもかかわらず、「あらあら、よく読んでなかったわ」とすんなりと踵を返すばあちゃんは優しい人でよかった。

いろんなテレビや雑誌の掲載を見てくれて、パン屋さんね!とか、カレー屋さんだね!と思って店に来る高齢者をことごとくあざむきながら、秋の彼岸を迎えたPUBLIC HOUSE はま。来店経路はメディアにとどまらず、「鹿島に遊びにいく途中の通りすがりに見つけたので、帰りに立ち寄ってみました」という人も。鹿島でのタイムスケジュールや散歩のルーティーンとか各々の予定がある中で、不思議なガラス張りの空間が突如として現れて、そのくせ「昔からありましたけど?」みたいな顔でたたずむ「はま」を、予定にはないことだからとそのまま通りすがるか、予定外の出来事として面白がってくれるかは、その時のその人にとってのタイミングとか心の余裕もあるだろうから、無理に引き摺り込んだりはしない。でも、こりずに遊びにきてくれる人や、「もうこんな遠い所2度と来ることないと思ったのに、なぜか来ちゃったよ!」と遠方から2度、3度きてくれる人は、訪れるたびにこの場所でのそれぞれの過ごし方を見つけてくれているのならそれはとても嬉しい。

お散歩途中のカップル、可愛いおかっぱ頭の子を連れたパパ、松山から北条に移住してきたご夫婦、遠くからパンを買いにきたお母さん、旦那さん出張中のため周辺を一人で放浪しているクレロのみゆきさん…今日という今日は大変賑やかで、毎日店に来るじいちゃんたちはその間、港の遠くの方からこちらを見ながら終始うろついていたけど、席はなかなか開かない。日が傾いて少し涼しくなり、最近イタリアから北条に帰ってきたばかりのニコさんが、ジャマイカから来た友人のジェイドを連れてきた頃やっとキャラ渋滞のピークを迎えた。同時にジュンコさんがやってきて、窓の外でうろつくじいちゃんたちをおーいと呼び寄せる。ジュンコさんがタコ釣りの奮闘記を私に語り始めるそばで、ニコさんはコーヒーを啜るじいちゃん達と、通っている散髪屋の話題で盛り上がり始めた。高校の英語教師をしているジェイドは、日本に来てまだ1ヶ月。最寄りの散髪屋ハッピーに髪を切りに行ったところ、ハッピーのマスターがジャマイカ人の髪を切ったことがないというので、コミュニケーションの繋ぎ手として日本語と英語が話せるニコさんを呼んだのがきっかけで2人は仲良くなったそう。ハッピーは中学校の通学路にあって、マスターは飼っているおとなしいダックスフンドをよく散歩させていたっけ。マスターも、まさか理容師人生も折り返し、ジャマイカ人の髪を切ることになろうとは思いもよらなかっただろう。ジェイドは今年、人生で初めての寒い冬を迎えるという。私は、とにかくユニクロに行って防寒着を揃えるようにアドバイスした。ある日突然寒さがやってくるからと。それが冬だよと。
ジュンコママの声が、店内の賑わいにかき消されて聞こえないと思っていたら、気づいたら彼女は帰っていた。

夕方すぎに西武さんがやってきて、夕飯の時間だと言ってニコさんたちは帰っていった。すっかり忘れていた。今日の私にとってのメインイベントは、西武さんオリジナルのTシャツに、西武さんオリジナルロゴを制作してもらう相談だった。このメインイベントにたどり着くまで、思いがけず壮大な時間がかかったような気がした。

店を施工する段階からそう思うけど、自分のできないこと、特に「その人だけができること」を頼むことは
ただ自分に足りないところを補うのではなくて、その人の土俵で改めて世界をとらえたり、自分の立場に立って一緒に考えてもらうことに大きな意味を感じる。
「濱」っていう文字が、はまの人にとってはもちろん、はまの人じゃない人にとっても、ここからどんな新しい意味が加わり用いられていくか、って考えていたら、人型フォント「CHO-JINフォント」を作っているイラストレーター西武アキラさんにオリジナルロゴ(というかフォント)の相談をしてしまっていた。
文字って公式にデザインされた記号から、それが従来含むより多くの意味を、何層ものレイヤーを、彼の生み出すフォントなら表現できると思ったし、国内外でも、二次元でも三次元でも創作を探求し続ける西武さんに「濱」の新しい扉を開けてほしい、とも思ったからだ。
はまのおいちゃんたちに着てほしいとは思うけれど、地元の旧地名「濱」って書かれたTシャツを若い人がいい感じに着こなしてるのを見たおいちゃんたちが、海外で「極度乾燥(しなさい。)Superdry」みたいなヘンな日本語のシャツを見かけた時みたいな、いやちょっと違うかもしれないけど、ある種のこそばゆさを感じてほしいなとも思ってる。
そんなわけで、イラストレーター西武アキラさんがTシャツからこだわって作ってくれる「濱」のオリジナルフォントTシャツが年末くらいにはリリースしそうです。



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