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おかみの覚書vol.2 「とこのまセレクトをはじめた話」

どこに向かえばいいのかと迷いながら旅をする人に
もちろん門司港の名だたる女将さんやマスターを紹介し、
相談してきなよ!と送り出すことは簡単だけど
(門司港の人々には、そういう意味でも大変お世話になっているのです)
果たして自分のたった20数年の経験と知識をもってして、自分の言葉で、思い悩む人々になんと伝えればいいだろうかと、私は思い悩んでいた。

今までポルトは、誰かの「やりたい」「見たい」「知りたい」に火をつけて爆破を試みてきた。コーヒーに、スパイスカレーに、写真に音楽...自分の愛することを全力で表現する人たちに私もたくさん楽しませてもらい、イベントのたびにポルトも生き生きとして見えた。手のかかるほど愛しい、木造3階建の70歳は、楽しそうなときと寂しそうなときとが大変わかりやすい。誰に似たんだか。

しかし私はそれと同時に、「どこへ行こうか」「どっちに進もうか」と迷う人たちにも人間らしさを感じていた。別にどこに行こうと行かまいと知ったこっちゃなくて、最終的に行き着く先は本人の勝手だ。けれどあなたと私が、1日でも1時間でも、せっかく同じ時間を共有するのなら、どうせなら時間の許す限り、答えのないまま一緒に右往左往しようよ!と思う。時々勢い余って、そっちは辞めた方がいいんじゃないとか、こっち側に来なよ!!とか、主観を口にしてしまうこともあるけれど...。私のそんな無責任さをもはや武器にして、ポルトの3Fに小さくつくった「とこのまセレクト」は、
今の私の中で、旬で食べ応えのある本をひっそりと、しかし確かな熱を持ってごり押しする1冊だけの選書棚だ。具体的でなくても、現実的でなくてもいい、私の選ぶ本の中で、恐れ多くも自分の大切にしたい生き方や考え方の提案ができれば、と思っている。
私たちを手招きして道を教える本じゃなくて、
ページをめくった私たちに、考える時間を与える本を用意していきたい。
とはいえ私も、借りたまま、買ったまま手付かずの本に囲まれているから、「選書」を口実に自分の考える時間をもうけているというのが大きい。

本も映画も、指先で片手で、好きな時になんども見られてしまう今、
手当たり次第にふれるより、一つ一つとの出会いを大切にする方がしっくり来るように思えてきた。途中で手を止めてしまいそれきりの本もあるのだけれど、もしかしたらいつかはビールのようにグビグビと体内に吸収できるかもしれないから、私の舌が追いつくまで、と本棚にしまっている。



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