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長谷川麟『延長戦』 自分からの遠さの短歌
長谷川麟の短歌集『延長戦』という本を読んだ。
歌集のひとつの側面として、「遠さ」を題材にしたものが多い。紹介しつつ語りたい。
思いっ切り投げたボールがワンバンで君に届いた夕暮れだった
思い切り投げる以上に強い「思いっ切り」で投げたボールが相手に届かない。ワンバンで届く。言い回しが「届いた」になることの、ちょっとした慰めだ。
布団から手を伸ばしても届かない部屋の明かりがずっとまぶしい
寝た状態で上に向かって手を伸ばすが、照明まで届かない。まぶしいが、起き上がるのは面倒くさくて「ずっとまぶしい」。
君が手を振るからあんまり遠くないように感じるこの席と席
それまでは遠く思っていたのだろう。好ましい相手が手を振ってくれる。手を振り合うことができるのだなと気がつく。
行きしなは特には思わなかったけど遠くにあってよかったね うみ
すでに過ぎてきた距離について、元いた地点からの遠さのことを思っている。
これらの短歌は、二つの位置のあいだの距離を客観的に記しているのではなく、自分から見た遠さの度合いについて書かれているのが特徴である。奥行きと言ってもいい。左右の距離ではない。「前後」、自分自身からの遠さを短歌にしている。遠さのことを、たとえば夕暮れという状況を示しながら違和感なく埋め込むのが巧みである。
次の短歌はシンプルだが、そのことをよくあらわす一首だろう。
ひのながくなりゆく空に飛行機が雲よりずっと手前に見える
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