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7th YEAR BIRTHDAY LIVE 雑感

 2019年2月21日から4日間、乃木坂46のデビュー7周年を祝うライブ「7th YEAR BIRTHDAY LIVE」が大阪の京セラドームで開催された。そこから約1年後の2020年2月5日、ライブの様子を収めたDVD/BDが発売されたということで雑感をつらつらと。すべての日程、すべての楽曲を追うのは大変なので、7周年に合わせて厳選した7曲の感想を綴っていこうと思う。選曲が推しに偏っていることについては目をつぶってほしい。


⊿ ぐるぐるカーテン

図1

 本ライブのオープニングを飾ったのは乃木坂46のデビューシングルにして原点であるこの楽曲。『OVERTURE』で会場のボルテージが上がりきったあと、スクリーンに映し出されたのは2011年8月21日に行われた1期生合格者発表会の様子だった。そして、当時のエントリーナンバーとともに1人ずつ名前が読み上げられ、成長したメンバーたちがステージに歩みを進めた。この演出に胸を打たれたファンは多いだろう。

 星野みなみの掛け声をきっかけに『ぐるぐるカーテン』のイントロが流れた瞬間、ノスタルジーの波が押し寄せてくる感覚に襲われた。結成当初は33人いた1期生も、2019年2月時点で14人。この数字だけ見ると寂しさとともに少なくなったという印象を受けるかもしれない。しかし個人的には「ここまでグループに残ってくれてありがとう」という感謝の思いが強い。変わりゆくものが多いからこそ、変わらないものへの想いは深まるというものだ。

 1期生だけでのパフォーマンスをあと何回見ることができるかは分からないが、乃木坂46の礎を築いた彼女たちが初々しさを取り戻すその瞬間を、一回一回しっかりと嚙みしめたい思う。


⊿ ボーダー

図2

 乃木坂46の中で唯一研究生制度が採られた2期生。そのなかでも、正規メンバー昇格に時間を要した所謂「ボーダー組」によるユニット楽曲である。アイドルにとって決して短くない約2年間という時間を、研究生という鎖に縛られながら過ごしてきた6人。一足先に昇格する同期がいた。正規メンバーに昇格する前に卒業していく同期もいた。「研究生という立場は正直辛かった」「自分が認められていないんじゃないか」と吐露したメンバーもいる。そんな彼女たちが正規メンバー昇格を諦めず、もがき続けた末に掴み取った楽曲がこの『ボーダー』だ。

 今では、舞台で輝く者もいれば、好きを仕事に繋げた者もいる。未開拓の分野に足を踏み入れた者もいれば、ライブで熱い想いを届ける者もいる。持ち前の頭脳を活かす者もいれば、ダンスに磨きをかける者もいる。選抜メンバーとしてスポットライトが当たる機会が多くない彼女たちは、それぞれのポジションで自ら輝きを放っている。個人仕事やライブシーンにおいて、ここ数年で選抜とアンダーはボーダーレス化していると感じる。そう感じさせてくれたのは、アンダーメンバーにも魅力がたくさん詰まっていると感じさせてくれたのは、間違いなく彼女たちの努力の結果でもあるだろう。

 このライブでは、3rd YEAR BIRTHDAY LIVE の昇格発表で涙を流していた少女たちの姿はなく、ステージの上で凛然とパフォーマンスする6人の姿が目に留まった。そして、曲中にメンバー同士がアイコンタクトをしている様子も印象的だった。ほんの数秒ほどの出来事だが、およそ6年という歳月をかけ形成された信頼関係が伝わるのには十分すぎる時間だ。

 アゲインストの中でも確固たる地位を築いた1期生。追い風に乗って吹き抜けていく3期生。変わりゆくグループの中で、2期生が台風の目になることを期待している。


⊿ 失恋したら、顔を洗え!

図3

 乃木坂46内ではおなじみのバンドユニット「乃木團」の楽曲。オリジナルメンバーの中元日芽香・能條愛未・川村真洋の卒業に伴い、本ライブでは新体制のお披露目となった。新たにツインボーカルを務めたのは、前任者とも所縁のある伊藤純奈と久保史緒里。ギターは、忙しい合間を縫って氣志團から「西園寺瞳」さん「星グランマニエ」さんが協力な助っ人として大阪まで駆けつけてくれた。本当に優しい人たちで、本当にカッコイイ人たち。

 乃木團の魅力は何といっても、バンドメンバーが純粋に楽しんでいるところにあると思う。楽器や歌声を武器に堂々とパフォーマンスする姿は、青春時代をアイドルに捧げた彼女たちが、彼女たちなりの学園祭を楽しんでいるようだ。新メンバーの2人が放つ歌声の親和性は過去いくつかのライブを通して証明済みだが、ある意味で乃木坂46らしくない骨太サウンドでもその魅力は十二分に伝わってきた。

 氣志團万博のゲストとして乃木坂46に声がかかったことをきっかけに誕生した「乃木團」だが、先日このようなツイートを目にした。

いつの日かまたGIGできることを願っている。
よろしくぅ!


⊿ 日常

図4

 22ndシングルのカップリングとして収録されたアンダー楽曲『日常』。乃木坂46のライブにおいて、この曲が持つ熱量はすさまじい。センターを務めるのは北野日奈子。彼女の乃木坂46キャリアのひとつの転換期ともいえるイベントが、本ライブの2ヵ月前に行われた。武蔵野の森総合スポーツプラザにて開催されたアンダーライブである。

 ここでは、初心を思い出すかのようにライブについて話し合いの場が設けられたり、よりよいパフォーマンスを披露するために固めの時間を多くとったり、熱狂の下準備が着々と進められていた。そして迎えた本番。セットリストやステージセットに頼りすぎない、メンバー各々の魅力が全面に押し出された楽曲が披露される。終盤のダンスブロックでは「踊ることが苦手」と口にしていた北野が、その思いを跳ね除けるかのような力強いソロダンスを披露し、1万人を超えるファンの視線を奪った。北野はライブの感想として、「昔ながらの(熱い)アンダーライブを大きい箱でもできて良かった。」と語っている。

 そして本ライブの会場は京セラドーム。ここでも同様の熱量を生み出せたのは、アンダーライブで座長を務め、過去の炎を再燃させた北野の存在。そして、同じ温度でライブをつくりあげたアンダーメンバーがいたからこそだろう。

 彼女たちは、その後のツアーでもこの楽曲を披露するたびに会場を沸かし続けている。ライブという「非日常」を楽しみに会場に足を運ぶ人にとって、この『日常』のパフォーマンスは格別だ。今後もアンダーメンバーの炎が燃え続けるかぎり、会場は青い熱気に包まれるに違いない。


⊿ 君は僕と会わない方がよかったのかな

図5

 Day4は西野七瀬の卒業コンサートではあったものの、多くの人がこの楽曲もハイライトの1つだったと答えるだろう。オリジナルセンターである中元日芽香の代役を務めたのは久保史緒里。両者がともに活動した期間はおよそ1年ほどで、全員参加の『設定温度』を除き2人が同じ楽曲に携わることはなかった。しかしその1年という時間で、中元は久保を「ソウルメイト」と呼ぶほどに二人は関係を深めていた。

 そんな久保がいつの日か『君僕』を歌い、中元にその姿を見せたいという夢を抱えていたというのだから、このパフォーマンスはより一層特別なものに感じられた。乃木坂46のファンだったからこそ分かる難しさ。オリジナルメンバーではないからこそ感じる重圧。大好きな先輩が立っていたポジションを務める恐怖。それらを抱えながらも「自分にできるのは歌い続けること」という強い意志を携え、過去・今・未来の乃木坂46ファンを想って歌声を届ける姿はとても素敵だった。

 楽曲終盤に久保の瞳が潤んでいた理由は分からない。ただ一つ分かることは、久保の眼前に広がるピンクとピンクで照らされた温かい空間は、ただ過去の慣習に沿って作り上げられたものではなかったということ。その光は、中元が残した足跡を、そして彼女の想いを継ぎステージに立つ久保を慈しむ光だったのではないかと個人的に思う。


⊿ 遠回りの愛情

図6

 10thシングルがリリースされた当時は8人で歌唱していたこの楽曲。卒業していくメンバーが増え、そのポジションに代打を立てるケースも珍しくなかった今回のライブだが、(華の)94年組の『隙間』『遠回りの愛情』の両曲はオリジナルメンバーのみでの披露となった。

 出会いは別れの始まりとも表現されるが、このグループで育まれた関係性に別れは訪れるのだろうか、と思わされることが多々ある。それでも「乃木坂46のメンバー」として共有する時間には、いつしか終わりが来てしまう。そんな中で彼女たちが「時間が欲しいの」と歌い上げるさまは哀愁を感じざるをえないものだった。

 今後のライブでも『遠回りの愛情』を披露する機会は訪れると思われる。そのとき、どこの会場でどんなメンバーがステージに立っているかは分からない。ただ、このメロディを耳にするたび、過去を懐かしむかのように優しく歌い上げる5人の姿が脳裏を掠めることになるだろう。


⊿ 帰り道は遠回りしたくなる

図7

 Day4の46曲目に選ばれたのは、過去7度のセンターを務めた西野七瀬の卒業シングル。2018年の9月にブログで卒業発表をしたその日から、西野とのお別れの準備が始まった。最後の握手会、最後の歌番組、最後の冠番組。最後の紅白歌合戦を終え、彼女は7年間掲げ続けていた乃木坂46の看板を下ろした。それからおよそ2ヶ月後。西野が生まれ育った地で、アイドルキャリアにピリオドを打つ日がやってくる。

 冒頭のMCで、西野と親交が深かった高山一実が「なあちゃんが羽ばたくための羽根を刺せたらいいな」と笑顔で口にしていたのが印象的だった。その表情の裏に溢れんばかりの寂しさを抱えていたことは想像に難くないが、西野の未来を想う高山らしい祝辞だ。ライブは進み、迎えたアンコール。西野はステージの中央で今にも飛び立ちそうな華やかな衣装に身を纏う。他のメンバーと対照的だったのは衣装だけではない。どこか清々しい表情を浮かべる彼女の周りには、惜別の想いを隠し切れないメンバーたちがいた。刻一刻と迫る「その時」を迎えたくないと思っていたのは、どうやらファンだけではなかったようだ。

 7th YEAR BIRTHDAY LIVEの4日目、端を発したのは西野七瀬初センター曲『気づいたら片想い』だった。この楽曲がきっかけとなり、彼女に「儚い」というイメージが定着したように思える。しかし乃木坂46として、アイドルとして多くの人を虜にしてきた西野の存在は、その儚さを否定するかのようにいつまでもメンバーやファンの心に残り続けることだろう。離れていく西野七瀬というかけがえのない存在を想い続けるそのさまは、まさに片想いのようだな、と感じた。


⊿ あとがき

 本ライブでは卒業していったオリジナルメンバーのリプレイスとして、後輩メンバーに白羽の矢が立つ機会が多く見受けられた。その登用にプレッシャーを感じ涙するメンバーもいれば、ネガティブな感情を持つファンが一定数いたことは事実だ。アイドルという職業の特性上、また全曲披露というコンセプトを続けるのならば、避けては通れない課題である。

 メンバーがこれまでの歴史を尊重しつつも、新たな良さをアピールできるかどうか。これが、全曲披露を続けるか否かを決める大きなファクターになるだろう。大きな背中に憧れて乃木坂46の制服に袖を通した後輩たちが、重圧に苦しみ、自らを卑下する言葉を零してしまう気持ちは少なからず理解できる。そして残されたオリジナルメンバーが後輩を擁護する姿も容易に想像できる。しかし、そのようなテンプレート化されたやり取りを見て誰が幸せになるのだろうか。誰も幸せにならないライブほど価値のないものはない。

 ファンに対して思うことは「各メンバーに代わりなんていない」という当たり前のことを念頭に置くべきだということ。オリジナルメンバーこそベストだと思うことは当然である。しかし、時間的制約が強いアイドルというコンテンツを追い続けるのならば、いつかは変化を受け入れなければならない。そこで過去を引き継ぐ体制にするか、目新しさを重視した体制にするか。楽曲やメンバーによる工夫も当然必要になってくるが、当事者たちが未来を見据えているにも関わらず、過去の幻影を追い続けるファンが足枷になることは望ましくないだろう。どうか割り振られた名前とポジションだけで評価するのではなく、そこでパフォーマンスをするメンバーのことを見てほしい。どのような考えを持ち、どのような努力を積み、どのような振舞いをしたかが、真に重要なことなのではないかと思う。


過去がどんな眩しくても
未来はもっと眩しいかもしれない

 この歌詞は旅立っていく卒業生とともに、残されたメンバーやファンにも宛てられたものだと思う。オリジナルメンバーだけで披露する楽曲を心に刻みこもう。新たな楽しみと可能性を見出そうと尽力する後輩メンバーに声を届けよう。思い出を慈しむ時間があってもいい。ただ、ステージで汗を流す存在にも目を向けていこうじゃないか。

 7th YEAR BIRTHDAY LIVE からおよそ1年。台湾公演を終えた高山と齋藤飛鳥のインタビューがリリースされた。グループとして過渡期を迎え、数多の別れを経験してきた1期生が紡ぐ言葉には重みがある。本記事の最後は、インタビューの中でも心に残った飛鳥の一言で締めたいと思う。

「私たちは現在進行形の乃木坂46として頑張ればいい。それぞれの個性を磨き、今しかできない表現で輝ければいいと思うんです。」

2020年2月21日
エメりんご


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