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人事部は人材育成の役に立っているのか?

人材育成の領域に複業ファシリテーターとして関わり続けていて、近年うっすらと感じていたこと。それは今「企業の人事部が機能していないのではないか」ということだ。特に能力開発・人材育成分野における「役に立っていない感」が著しくなってきたのではないか、と捉えているので、今回はその分野に絞って話を展開する。(人事制度や評価、配置・採用にも思うことはあるが一旦置いておく)

独りよがりで考えているだけだと説得力に乏しいのだが、先日人材コンサルタントの山口博氏の著書「チームを動かすファシリテーションのドリル」を読んでいたら(名著です)、そのあとがきにもこのことがはっきりと書かれていた。この本、2016年の出版なので私よりだいぶ早くに気づいている。著者の山口氏にお会いしたことがあるが、企業での人材育成部門経験を持って独立され、あまたの企業内教育に関わってきた方である。

私のところにも企業から様々な研修依頼をいただくのだが、依頼主はそのほとんどが事業部門だ。それは営業本部だったり、地域カンパニーの統括部門だったりする。要は「現場、もしくは現場を直下に抱えている組織」である。そのいずれもが当初は研修の中身を指定しない「悩み相談」から入ってくる。

・営業担当者の提案力を上げたいのだが、どのようなスキル向上や定着の方法があるか

・部下が自分自身で課題発見、課題解決できる能力を高めるにはどうしたらよいか?

・顧客企業と異業種交流会を開催しているが、業界の異なる集まりで共に学べるスキルは?

・新任管理職が部下に信頼されるコミュニケーションを取り、モチベーションを高めるには?

・大規模なプロジェクトでコミュニケーションの課題があるが、どんな観点で解決できるのか?

それらのいずれもが大切な課題であるし、皆さん真剣に取り組もうとして悩んでいる。当然、その過程では人事部にも相談している。しかし真剣に取り合ってくれないのか、解を持たないのか、結果として現場にとって満足の行く答えや提案を人事部では用意していなかったということが想像できる。

私自身の仕事柄、人事部門の方や人事関係者ともお会いし議論することがあるが、何というか事業部門との「スピード感」のズレを感じることがある。単純に「今の課題に最短距離で解決に向かいたい」現場と、「総体としての課題認識に基づき組織全体を改善しようとする」人事部門の、見ようとしている景色の差である。

どんな組織も部門で細分化されると、その一つ一つはそれぞれの立場で最適化を求める。バラバラになっては困るので、本社部門はブランドメッセージや一気通貫した施策を通じ束ねることを目指す。同時にそれぞれの部門が満足の行く支援策を先手を打って提案・提供する。

人事の観点においてもまったく同様で、部門や局面ごとの対応と会社組織全体の対応のベクトルが一致することを目指す。その中でも特に人材育成部門にとって大切なのは、現場の悩みを受け止める懐の深さと、それを解決に向けるために現場が納得できる「個別解」を臨機応変に多様に提供できる柔軟さである。そして、それを支えるのは人事部員一人ひとりである。

つまり、大切なのは「人事部を構成する職員自体の人材育成」ということに自然と帰結する。人事部にとって必要なのは計画的、戦略的に長期目線で人材育成に取り組み、専門家人材を充実させることに他ならないと私は考えている。

・人事部の人材育成、配置と教育
→10年はかかる。部門別採用が本来は望ましい。社歴の全てが人事部、という人も必要。

・適性の分かれる特殊任務
→誰でもできる役割ではない。自分でなく「他人軸」で考えられる人。単に「仕事ができる」人は向いていない。

・徹底して脳を使い考える能力
→研修専門会社や人事コンサルタント、大学教授、他業種のベテラン人事を相手にしても、一歩も引けを取らず説得力を持って持論を展開できる示唆の積み重ねと、思考力・対話力。

・ファシリテートする能力
→一連の人材育成課題を、関係者を巻き込んで議論を構築・誘導し正しい施策へ導く力。トップを動かす肝が据わっていること。

ざっとこのような能力が必要だと考えている。人事部自身の人材をまずは骨太に育成することを目指しつつ、同時に現場の課題に対するソリューションを矢継ぎ早に提供する。そんな困難ではあるが重要な役割を果たすことが、いま人事部特に人材育成部門に求められている、と感じている。多くの企業がそのような観点を持って取り組まれることを、心から応援したい。

(その補完役割を私たち人材育成フリーランスが担えるので、良質なコラボレーションを築きながら、社内外のリソースを絡めて最適解へと導いていただければ本望である。)

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