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ゲンゴロウ刑事に捧ぐ。
西表島勤務の日。
施設に到着すると、水の入った海苔の空き瓶がテーブルにどん!と置かれていました。
こ、これは…?!
「そうです、ゲンゴロウです!!!」
スタッフのSちゃんが鼻高々に教えてくれました。
なんでも、プール掃除のバイトで、水を抜いたプールの水溜まりで動いていたそうな。
「すごいねー!めちゃめちゃ珍しいじゃん!」
「でしょう?ねっ!!すごいでしょう??!!」
私とSちゃんが盛り上がっているのを、他のスタッフさん達は、なにがどうすごいのか、さっぱりわからない様子。
その「すごさ」には、それなりの思い出があり、私にはワカルノデス。。
※※※※※※※※※※※
10年ぐらい前に、友人が、昆虫好きの息子のためにゲンゴロウを飼育しようとして、田んぼや溜池を探したが見つからず、躍起になって延々と探し求める日々を応援していたことがある。
その夏の彼女は、毎日、毎日、自分で思い当たる水辺をくまなく歩き回り、ゲンゴロウを探していた。知人の農家から情報を聞き、植物園の蓮池に行き、そこの職員からまた情報を仕入れ、また翌日に出掛けて行く…。
なんでそこまでゲンゴロウに入れ込んでいるのか、傍で見ている者には謎なのだけど、「居ない」となると「逢いたい」となるのが人の常だしなあ、と思い、初めは微笑ましく見守っていたのだけど、なかなか見つからない日が続き、そのうち彼女の息子はゲンゴロウのことなどすっかり忘れ、セミの抜け殻に夢中になっていた。
それでも彼女はゲンゴロウを追っていた。もはや息子のためじゃないのが一目瞭然で、そこがまた面白かった。
彼女は、すっかり、自分が子供に戻っていたのだ。
専門書からの知識を叩き込み、懐中電灯片手に長時間張り込みをする、オトナコドモな彼女の執念がすさまじく、いつのまにか私は、彼女のことを「ゲンゴロウ刑事(デカ)」と呼んでいたほどだ。
しかし、それほどの情熱を持ってしても、けっきょく、その夏、ゲンゴロウに会うことはできなかった。
石垣島の大自然のなかでさえ、なかなか見つからない。
それがゲンゴロウ。
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うっとり2匹のゲンゴロウを眺めるSちゃんの隣で、パシャリと写メを撮りました。
あの夏の彼女は今、引っ越して那覇にいます。
思わず写真を送り
「みつかりました」
と言葉を添えました。
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