夜にはずっと深い夜を 鳥居みゆき著
コオロギがヒョロヒョロと鳴く季節になった。
夏が終わると、鳥居みゆきさんの「蝉」という詩が読みたくなり、この本を手に取る。
Amazonの購入履歴を見ると、2012年に手に入れたようだ。
詩を読みながら、さてこの夏はどう過ごしただろうかなどとしばし思いにふけったりしてみるのが恒例だが、来年の夏になれば今年の夏のことなど忘れてしまい、またこの本を開くのだろう。
じっさい今年も昨年のことなど思い出せないままにこうしてこの本を手に取っている。いや昨年開いたかどうかも最早定かではない。
そんなことを毎年のように繰り返している。
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だいたい「蝉」を読めば「あぁ今年も夏が過ぎたな」と思って再び本棚に戻いてしまうのだけれども、今回は「蝉」を読んだ後ひさしぶりに最初から通しで読んだ。
あるいは買った時以来かも知れない。
やはりこの本が好きだ。
滅裂に見えてこれらの詩や物語の数々は、いくつかの伏線を貼り、回収する。
夏の終わりに、どんな怪談よりも背筋が凍り、体温が下がる。
いや、きっとこれは夏に別れを告げるというより、これから秋や冬を迎えるための寒冷順化。
心を静かにし、デプレッシブに冬に向かうのだ。
そんなことに気づかされる。
私の場合「蝉」を軸にこの本に接していることから、自分の中で「夏の本」になっているのだろう。
この本はタイトル、カバーイラスト、本のサイズ、材質、どれをとっても私の心に触れる、大切な1冊だ。
それにしても、蝉は鳴かなくなったが今年の9月はまだまだ暑い。