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#10_東南アジア市場において「(市場環境を視る)レンズ」のピントを合わせるためには

前回までの論考において、日本企業が正しく市場を見るためには、ピントの合った正しい「レンズ」を付ける必要があると話をさせていただいた。一方で、現実を見ると、東南アジア市場に進出している日本企業の一部は、依然視界を狭めてしまう「縛り」、思い込みの「レンズ」がはめ込まれている点について議論を展開してきた。

今回はB2B企業を事例に、前半部分は「レンズ」のピントを合わせる難しさについて、後半部分はこうした課題を前提とした上で、どう「レンズ」に磨きをかけていくのか、について議論を展開していきたい。

まず、一般的に日本企業が東南アジア市場に進出する際は、現地のディストリビューターをパートナーとして活用するケースが多いものと想定される。ディストリビューターの活用は、参入当初は販路拡大という点でビジネスに多大な貢献をもたらす。一方で、当該市場の競合企業やエンドユーザーの情報を解像度高く入手する目的においては、課題にもなり得る。

そもそも現地ディストリビューターには、パートナーである日本企業に対して積極的に、ビジネス上キーとなる情報を共有するインセンティブは働かない。過去の日本企業の欧米市場における販路展開事例からも分かる通り、日本企業は現地ディストリビューターとの「情報の非対称性」が解消された暁には、ディストリビューション体制を再構築し、直販体制を強化するケースが多い。

故に現地ディストリビューター側には中抜きリスクを回避するインセンティブが強く働くため、日本企業側には現地のディストリビューターを介して、「鮮度」の高い情報が共有されることはほとんどないと考えるのが妥当である。もちろん日本企業側としても市場状況を精度高く把握したいという目的で、ディストリビューターに対して現地訪問調査を要望するケースも多いが、基本的には現地ディストリビューターはエンドユーザーとパートナー企業が直に接触することを好まない。

例えエンドユーザー側との接触が実現出来たとしても、現地ディストリビューターと良好な関係性を構築しているエンドユーザーと引き合わされ、自社がいかに優れたパートナーであるかのお披露目会となる場合がほとんどである。

結局のところ、日本企業はこうした偏った市場フィードバックに基づいて意思決定が行われ、事業を推進していくため、競合企業に対していつまでも勝ちパターンを構築出来ず、成長著しい東南アジア市場の「旨味」を享受できない状況に陥っているものと考えられる。

これまで述べてきたとおり、日本企業は現地のディストリビューターを活用する限り、市場の「核」となる情報には触れることができない可能性が高い。

一方で、現地ディストリビューターとの間にある「情報の非対称性」を解消する新たな取り組みを実践する日本企業の事例が出始めている。今回はその一事例をご紹介して本論考を終えたい。

日本企業B社は東南アジア市場においてB2B顧客向けにオフィス機器を展開しており、販売面を現地ディストリビューターに依存していた。顧客ニーズを的確に捉えたマーケットインの活動を目指すべく、一時はディストリビューター側との契約を打ち切り、全面的に直販体制への移行もオプションの一つとして検討された。しかし、市場環境やB社の現行売上規模や組織内のリソースを考慮した結果、時期尚早と結論付けられた。

その後は、現行のディストリビューション体制を維持した上で、いかにエンドユーザー側のニーズをくみ取る体制を同時に構築するのか、議論が日本側では繰り広げられていた。先に結論を述べると、B社はパートナーである現地ディストリビューターがカバーできていないエリア(地域や業種 等)において、小規模な直販体制を構築する方針を定めた。さらに、直販部隊が獲得した案件については、B社からディストリビューター側に情報共有され、売上はディストリビューター側に加算されるスキームとした。

B社としてはエンドユーザーの情報を解像度高く認識することで、フォーカスを絞って、商品開発に効率的に取り組むことが可能となった一方で、現地ディストリビューターは営業部門の人件費を追加で計上することなく、商圏の拡大が可能となったため、両社共にメリットのある形でビジネスを継続する体制が構築された。結果としてB社は市場のオーガニックな成長率を大幅に上回り、マーケットシェアを伸長させることに成功した。

今回の事例はあくまでも数多あるソリューションの一部に過ぎないが、既存のビジネス体制を維持しながらも、「レンズ」のピントを合わせていく活動は十分可能であるということを示すことが出来たのではないだろうか。

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